数学のまなび方 (ちくま学芸文庫)

数学のまなび方 (ちくま学芸文庫)

いよいよ、2008年ものこすところわずかとなりました。
締めのエントリーは、書評といたします。

来年の私の仕事の方向も決めるのではないかと思いました。
2回通読。仕事中、電車の中で、読み進めたので、証明の細かい論証のところは、
厳密に理解したとは、いえません。
でも、かなり丁寧には、読んだと思います。
読めば読むほど、よく作りこまれた本だと思います。

「数理科学」という雑誌の連載記事だったようです。
一発一発が、場当たりで掲載されたようで、実は、かなり全体の構造が
計算されていたのではないかと思います。

私は、この書物を通じて、いったい、何を「学んだ」と言えるのかと考え込んでしまいました。

結論から言って、
「本を厳密に読むことの大切さ」

この一点に尽きるように思う。

なぜか?

このポイントは、数学という、学問分野の特性によっていると思う。
数学以外の、隣接分野の特質と比較するとハッキリする。

物理や、化学というのは、仮説を考えて、その仮説が正しいかどうか、実験によって
確かめるというサイクルをグルグルと繰り返して、発展していると思う。

仮説Aが、実験Aで、「正しい」と立証されると、その仮説Aを前提に
仮説Bが考え出される。
また、仮説Bの立証のために、実験Bがされる。
実験Bが成功して、仮説Bが正しいと立証されると、
仮説Aから仮説Bが、推論・立証されて、仮説Cが、考えられて・・・・。

すると、数学以外の隣接分野では、「実験」という「現実」が大事になる。
「仮説」を考え出すもとになる、「現実」が問題になる。
もちろん、数学の「仮説」も、「現実」の何かから、数学者がつかみとったものかも
しれない。

しかしながら、

本書 252P

アインシュタイン 「幾何学と経験」

数学的命題は、実在に関する限り確実ではない。それが確実である限り、実在に関係しない

私なりに思いっきり、噛み砕いてパラフレーズいたしますと。

1+1=2
という命題が、正しいと判断できることと、現実の世界が、どうなっているかどうかには、何の関係もない。
現実と何の関係もないからこそ、「正しい命題」というものが、「仮定」できる。
もしも、「仮定」「仮説」「命題」が現実に立脚していたら、「現実」を根拠としていたら、
複雑怪奇な「現実」が、命題が成立することに対して、「反証」を出すという可能性が、ゼロにならない。
ゼロにならなければ、「正しい命題」というものは、設定できない。

だから、数学には、「実験」がいらない。
「証明」は必要でも、「実験」施設は、いらない。

紙と鉛筆だけがあればいい。
本だけがあればいい。

数学者が、書き残した書物の論理を厳密にたどることができればいい。
数学の発展は、先人がのこした、論理体系や、着想を、使いこなすことで、持続するのではないかと思う。

本書 56P 

N Bourbaki ニコラ・ブルバキ 「数学原論」(Element's de Mathmatique)

ギリシャ人以来、数学を語るものは、証明を語る

略歴

東京府立第四中学校(現・東京都立戸山高等学校)、第一高等学校 (旧制)を経て、東京帝國大学理学部数学科においては高木貞治に師事して主に類体論について学び、1929年卒業。ドイツとフランスに留学した。1942年 - 1967年まで東大理学部教授。1977年まで学習院大学教授。1978年、学士院会員に選出。
専門は整数論。後進の育成に定評があり、主な挙げられる弟子に、義弟でもあるフィールズ賞受賞者の小平邦彦、岩澤理論の岩澤健吉、佐藤の超関数で知られる佐藤幹夫などがいる。幾何や解析など、自分の専門外の分野でも優れた弟子を数多く育てた。
専門外でも代数学幾何学にも関わり、中学の先輩であり数学者である吉田洋一と同様、数学史を著しもした。ベトナム平和運動や核廃棄廃絶運動など平和運動にもかかわるなど、数学界を代表する重鎮としてその専門内外での政治的行動が活発でもあったといえる。また、11ヶ国語前後の言語をマスターしていた。
老衰のため2006年6月1日に100歳で死去した。最晩年にいたるまで、著書や論文を著した。
長男はセールの「数論講義」等を翻訳した彌永健一。

本書の目次

第1回

数学の本は紙と鉛筆をもって読むことのおすすめ

数学と王道
外国語の学び方と数学の学び方
Aさんのご紹介
Aさんの質問 相関係数とは?
Aさんとの対話 相関係数の計算、コーシーの不等式、そのいろいろな意味づけ
-1\leq\  r  \leq\-1の証明
Bさんの来訪 数学の本の読み方について

第2回
Cさんの質問
コーシーの不等式か、シュワルツの不等式か、その証明
発見者の問題 コーシー・シュワルツ・ブニヤコフスキー
シュワルツの証明 2次式と判別式
コーシーの証明 コーシー・ラグランジュ恒等式
白紙状態からの証明
行列と行列式 ベクトルと行列 2次式の行列式
ベクトル算と行列式 2次の行列式の性質 コーシー・ラグランジュ恒等式への応用
Bさんの立場とCさんの立場

第3回

具体的なものを抽象化して考えることのおすすめ

Dさんの質問 ユークリッド幾何について
「原論」の7不思議
著者はどういう人か? ユークリッドブルバキ
どういう読者のための本か?
どのようにして伝えられたか?
どれくらい親切に書かれているか?
どれくらい論理的に書かれているか?
どれくらい推賞に値するか?
どのくらい多くの人に読まれたか?
具体的なものを抽象的に扱うこと  原論成功の秘密

第4回

抽象的なものを具体的に考えることのおすすめ

Aさんの来訪
抽象的なものを具体化して考えること
集合算 スッピスの試作教科書 具体化された集合 部分集合 和集合 共通部分
集合の元または要素
ことばと記号の問題
空間と写像 全射 単射 全単射 恒等写像 定数写像 写像の合成
抽象化と具体化

第5回

理論体系を1つの一貫したものとして眺めてみることのおすすめ

Dさんからのたより 幾何教育について
幾何教育の4段階 Eさんの意見
ターレスの段階とユークリッドの段階 ターレスの諸定理 ユークリッドの意義
中学の幾何と高校の幾何
幾何か、群論
高校幾何の展開 7つの公理からピタゴラスの定理まで

第6回 

1歩1歩まなんでゆくことのおすすめ

Fさんの意見とAさんの来訪 群論とは?
集合の直積 解析幾何学の原理 2次元の表
ブルバキの記述 内的算法 群の定義
Aさんとの対話(1) ブルバキの本の読み方
郡の例 対称群 加群
Aさんとの対話(2)部分群 準同型写像
Fさんの意見について 有限群論の進歩

第7回

疑問をおこすことのおすすめ

Gさんの質問
ヒルベルトの公理系
結合の公理と順序の公理
合同または運動の公理・・・・運動は郡をなすこと
平行の公理と連続の公理
あるパラドックスの解決・・・すべての三角形は二等辺三角形
Gさんへのお答え・・・・・疑問をおこすことについて

第8回

疑問を追及することのおすすめ

Aさんの来訪
Aさんの疑問
疑問の追及・・・ダランベールの言葉
平行線の問題・・・非ユークリッド幾何学
失敗の歴史・・・・サッケーリの図形
次回のために

第9回

問題を整理することのおすすめ

Aさんとの対話 非ユークリッド幾何学の本 ポアンカレの「科学と仮説」
読んだ本から
問題の整理 三角形の不足角と球面過剰、公理の無矛盾性のモデルによる証明
ポアンカレのモデル ポアンカレ平面とポアンカレ運動郡 ’ふしぎな命題’

第10回

理論の構造に着目することのおすすめ

Aさんとの対話
2つのポアンカレのモデル Hの幾何学 $ H^{'} $幾何学
ケーレー・クラインのモデル $ H^{''} $幾何学 数学的構造の同型
その他のモデルと公理系の完全性 絶対幾何学 不完全な公理系とその効用、非ユークリッド幾何学の教訓

第11回

根本から考えることのおすすめ

Aさん Bさん Cさんとの対話
Cさんへのお答え
Bさんへのお答え 東海道中膝栗毛の話
Aさんとの対話 相対性理論リーマン空間 ポアンカレの体験
抽象代数と関数解析 群 環 体

第12回

自分で考えることのおすすめ

Hさんからの手紙
Hさんへのお答え 数学案内 現代数学の諸部門 ワイル、クライン、ヒルベルトの意見
環 体 ベクトル空間 外的算法 ベクトル空間の例
距離空間 ベクトル空間と距離空間 $ R^{n} $の二つの距離 連続関数の空間 点列の収束 連続写像
完備性 完備な距離空間と完備でない距離空間
コーシー点列
ノルム空間 バナッハ空間 ヒルベルト空間 内積 前ヒルベルト空間 ’完備化’
おわりに・・・関数解析の進歩

解説 数学者の心にふれることのおすすめ 小谷 元子

索引 303


本書にて、推薦された書物について


彼のような数学のプロが、何を読むべきかと指定しているのは、大事だと思う。

数理統計―大学演習 (1962年) 河田 敬義、丸山 文行、 鍋谷 清治 (- - 1962)
基礎課程 数理統計 河田 敬義 丸山 文行 (- - 1982)

Statistical Methods by George W. Snedecor and William G. Cochran (Hardcover - Jan 15, 1989)

線型代数学 (数学選書 (1))
佐武 一郎 (著)


行列と行列式 (1957年) (新数学シリーズ〈第5〉)
古屋 茂 (著)

The Thirteen Books of Euclid's Elements, translated from the text of Heiberg, with introduction and commentary by T.L. Heath. Three Volume Set, 3 Volumes by T. L. (Thomas Little), Sir, ed. and tr.; Heiberg, J. L. (Johan Ludvig) Euclid; Heath (Hardcover - 1908)  現在入手不可能?

群論入門 (新数学シリーズ 7)
稲葉 栄次 (著)

ヒルベルト 幾何学原論

A Survey of Modern Algebra (Akp Classics)
Garrett Birkhoff (著), Saunders Mac Lane (著)

ポアンカレ 「科学と仮説」


幾何入門 (1979年) (岩波全書〈209〉)
佐々木 重夫 (著)

代数学講義 改訂新版 高木 貞治 (単行本 - 1965/11)

ヘルマン・ワイル 「空間・時間・物質」

Moderne Algebra. T. 1

バナッハ 線形作用素

ソビエト アカデミー版 「数学通論 全4巻」

岩波数学辞典

ヘルマン・ワイル 「群論量子力学

解析概論 改訂第3版 軽装版 高木 貞治 (単行本 - 1983/1)


解析学序説 (上巻) 一松 信 (単行本 - 1981/2)

解析学序説 (下巻) 一松 信 (単行本 - 1987/2)

集合と位相 (朝倉数学講座) 亀谷 俊司 (単行本 - 2004/4)

トポロジー(竹之内)

ブルバキ Topology General

ルベーグ積分入門 (数学選書 (4)) 伊藤 清三 (単行本 - 1963/4)


代数学概説 1 (1) 彌永 昌吉 小平 邦彦 (単行本 - 1961/7)


代数学概説 2 (2) 河田 敬義 三村 征雄 (単行本 - 1965/5)