東京大学総長

東京大学は、2005年4月に金融教育研究センターと大学院金融システム専攻を東京大学経済学研究科に設置しました。また、現在、経済学部金融学科を設置することを予定しています。
 大学は今、世界的な競争環境におかれています。人材育成の場として、未来を牽引する創造の場として、社会との間で知が交叉する場として、どの大学が21世紀をリードするのか競争は熾烈を極めます。優秀な若者に、トップクラスの研究者に、問題意識を抱くすべての人々に、いかに魅力ある環境を提供できるのか、それが大学の競争力の本質です。
 東京大学は、日本の大学の中で最も長い伝統を持ち、常に先頭に立って新しい挑戦を行ってきた大学です。それゆえ、東京大学は、教育と研究の質の高さで世界のトップ大学と競争し、学問の進歩を牽引するという歴史的使命を負っています。東京大学においても従来から学部・研究科の再編を進めてきましたが、今後は21世紀における東京大学のあるべき姿を明確に描きながら重点施策を定め、世界をリードする研究・教育機関としての東京大学の地位をより一層強固にしなければなりません。東京大学本郷キャンパスに金融研究・教育の世界的な拠点を作るというこの度の計画は、まさに、研究重視型の大学である東京大学の戦略の重要な一環を担うものです。
 金融という学問分野は、社会科学系の学問のなかでも理工科系の知識が最も多く活用されている分野として知られており、新設される大学院金融システム専攻は、理工科系学部出身者を積極的に受け入れることを大きな特色としています。東京大学では、従来の文科系、理科系というカリキュラムの枠組みを全学的な視野で見直すことが、当面の最重要課題の一つとなっています。この課題に対する最初の取り組みとして、大学院金融システムの成否には学内外の大きな注目が集まるところです。また、優秀な教授陣を世界から集めてプログラムを国際化すること、ならびに民間からの資金導入によって産学連携で研究を推進すること、この両方の計画はいずれも東京大学の21世紀戦略を先取りするものです。金融資本市場は、常に社会変革の方向を読み取り、時代を先取りするものといわれます。大学と学問の変革をリードする進取の精神がこの度の計画に色濃く表れていると思い、東京大学総長として大きな期待を寄せています。
 21世紀の経済社会の発展にとって大学が重要な戦略的地位を占めることは今や世界の共通理解となっています。大学に対するこの期待の大きさは、大学に対する評価がますます厳しくなっていくことと表裏一体の関係にあります。東京大学はこうした環境を的確に認識しつつ、新しい世紀の新しい東京大学の実現に向けて、大きく足を踏み出していきます。