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ピンチョンのまなざし その7

日常の近世フランス史 (NHKシリーズ NHKカルチャーアワー・歴史再発見)

日常の近世フランス史 (NHKシリーズ NHKカルチャーアワー・歴史再発見)

西洋史学者、上智大学名誉教授。 千葉県生まれ。一橋大学社会学部卒業、パリ第4大学博士課程修了。東京経済大学助教授、教授、上智大学文学部史学科教授。2010年定年退任。専攻はフランス史

「歴史の勉強」というと、どこそこの国の王様や王女様が、いつ、どこで
どこの国と戦争して、XXな法律を施行したとか。
経済政策がどうのこうの。とかく、政治の歴史にフォーカスをあてて、記述
されていることが、まだ割合としては多い。
そういえば、僕が授業をうけた日本史の先生が、
「日本の古代・中世の政治の歴史は、つまりは、京都の天皇が住んでいる
所で起きていることだけが、問題にされている。」
ということをおっしゃったのを覚えている。
はたして、ここまで、「視座」が偏った状態での「記述」が果たして、
「過去を知る」という方法論としてふさわしいのかどうかというのは、たしかに
疑問の残るところ。
今回の、「日常の近世フランス史」は、こういう「偏った視座」から
「視点」を「広く」「解放」するという意気込みが随所にあります。
目次のタイトルをみても、それは明らか。
1章 近世フランスの社会
2章 生まれる 今でも、Hotな話題になる「避妊」のテクニックとか。
        当時の子供が丈夫に育ったのかどうかとか。そんなこと。
      「セックス」の生活にもろにかぶるので、結構生々しいことも
      書いてあります。
3章 学ぶ 学校というものがどういう経緯で出来るのかとか。
      お金持ちの家の子供だったら、「先生」が「家」にまで
      来るという環境が可能だけど、そうじゃない人のほうが多い中で、
      子供に与える教育の姿がどうあるべきかが、模索され、色々な
      流れを生んでいく。
4章 結婚する 昔のフレンチの婚活模様。
5章 働く 昔だって、いまの派遣会社が斡旋するような職種で働いている人は
      大勢いたというようなこと。
6章 住む  某大手情報誌のカタログに載っているような場所にどのランクの収入で
       どれくらいの部屋を賃貸できたのかとか。
7章 食べる なんといっても、ミシュランがうまれた国柄ですから。
       高級フレンチの世界だけではなくて、収入が低い階層に人たちが
       どんなものを食べていたのかとか。まさに「日常の食生活」の
       活字による再現。
8章 着る   プロの画家が描いたPaintingが残っている王侯貴族の人たちの
       「お召し物」ではなくて、そこそこの人たちが、どんなものを
       好んで着用していたのかとか。職業によって、ファッションスタイルが
       どのように違ったのかとか。
9章 集う  これも、実は、現代の日本の大都市事情とあまり変わらないのかも
       しれないと思ったところ。
10章 読む   パリなどの大都市に住んでいる人たちが、階級ごとに、どんな蔵書を
        もっていたのかの、「リスト」などを調べていくことで、パリの人たちの
        文化度を具体的に測定していく。

11章 ベルサイユに生きる これは、あまり、新鮮味がないかも、こういうところに住んで               いる人たちの様子というのは、ほうっておいても話題になり、
             しばしばメディアでも取り上げられる。
12章 老いる   高齢者が、退職してからも、しばし、生きながらえるということに
        なってくる。そうなったとき、ただ、忌み嫌われていた「老人としての生き       方」のとらえ方が、変わってくるという話。
付録 パリの給水事情
   料理革命
   定期刊行物の出現と発達

ざっと、目次にそった要点の説明でわかってもらえたかどうか、不明ですが。
こんな感じです。
「社会史」というやつなのかな。
こころなしか。「Marketing」ってこういうことなんじゃないかなって。
現代の生きている人間の有様は「個人情報の保護」の制約もあり、わからないことが
おおいけど、昔昔のもうすでに死んでいる人たちの有様は、史料を駆使すると
色々なことがわかってくる。そして、そこから浮かび上がってくる「生活の実情」
は、案外、いまとそんなにかわらないのかもしれない。
最後に、この講座を受け持った長谷川先生の冒頭の言葉。

しかし、ここであえて天下国家を論じず、近世フランスの、すなわち遠い過去のそして遠い国の人々の日常生活を淡々と描写するのは、一見取るに足らない日々の営みの中にこそ、共通する点が少なからず存在したことをまず知って頂き、大いに共感していただきたいからです。
共感から深い国際的な相互理解が深まるものと核心します。

その試みは、ある程度の成功をみたのではないかと思いました。
このジャンルはまた折りをみて、調べてみたい。
はたして、これと、ピンチョンのことと、関係があるのだろうかということだけど。
やはり、ある程度、関連はあるのではないかと思う。
Mason&Dixonで、House Of Burbonという項目があったので、
この本を買った。あとで、ブルボンを正面から扱った本もここで紹介しようかと
思っているところ。
長谷川先生は、バリバリのフランス語の専門家ですから、ことフランスに関しては、
ピンチョンより詳しい。
MasonもDixonも、教科書の大文字で登場する英雄ではない。
これからも、そういう扱いをうけることはないだろう。
しかし、作品の中にいる彼らは、とても活き活きとしている。
それって、この「近世の日常」に出てくる「視座」の意味と何らかの
関連があるのではないかと。