思いつき

引用

浜矩子氏: 書くことは、すなわち発見の旅です。書かないと絶対に発見できないことがあります。ゼミの学生さんたちと、学位論文の執筆完成に向けて1年お付き合いする中でも毎年申し上げることですけど、大切なことは結論を急がないこと。旅のプロセスをじっくり味わいながら行かないとダメです。これは冒険でもあるということで、何も発見できなかったらどうしようという怖さもあります。無謀にも思われるかもしれない。旅に出たはいいものの迷子になって、とんでもないところで野垂れ死ぬかもしれない。それがいやだからゴールを最初に決めておきたい。でも、ゴールに向かっての最短コースを見極められないと書き始められない、と考えて袋小路に陥る人が非常に多いんです。それは絶望的にダメなことです。

―― 書籍も、結論を決めずに書き始められることがありますか?

浜矩子氏: 基本的にいつもそうですね。書いていくうちにどんな本かということがみえて来るのです。そういう意味では、常にひやひやものですけど、ある程度のところまで行くと見えてきて、そこから先は言葉の洪水になって結論になだれ込んでいく。書き進んでいく中でしか分からないんです。これは400字だって4万字だって同じです。初めに結論ありき的なマインドセットで書き出すと絶対失敗します。車窓から見てすごくいい風景がそこにあるのに、それを見ないっていう感じになっちゃっていると、とんでもない脱線を自ら引き起こしてしまいますから。

―― 最後に、今後の展望をお聞かせください。

浜矩子氏: あんまりないです(笑)。それこそ発見の旅なので成り行きによります。本当におかげさまで、驚くほどに色んな機会を与えていただくので、それにライブ的に答えていくことの連続で、終わりなき旅です。もちろん、一つ一つの仕事は毎回、終わりに到達するんですけれども、それを重ねていった時に、最終的にどんな風景が見えてくるのかは、やっぱりまだ分からないですね。