Flash Boys: A Wall Street Revolt

Flash Boys: A Wall Street Revolt

読了。
株式の売買の仲介を行う事業者が、顧客である投資家の株式売買の動向の
情報をいち早く掴んで、差額を利益としてとっているという話題。

この差額を利益として手中におさめる手段として光ファイバーの回線の敷設と
プログラミングのテクニックと、アメリカの証券取引所がいくつにも分断されて
営業されているということが絡まり合っているので、HFTの概要を
掴むのはやはり難しい。

このHFTという取引に関係している当事者から、筆者のマイケルルイスが
しっかりとインタビューをとって、そもそも「HFTとはどういう取引をして利益をあげるのか?」
ということをテーマにして著作にしている。

投資家が株式の取引をするのに使用しているパソコン端末と、株式売買の処理をしている
コンピュータは、回線でつながっていると。
取引所
投資家 太郎
投資家 次郎
投資家 未来

太郎が、山田商事の株式100を1株100円で買いたいと注文を出す。

次郎は、山田商事の株式100を1株98円で売りたいという要望を出す。

取引所のウェブサイトに、太郎の買い注文と、次郎の売り注文が並ぶと、
間もなく、取引成立というのが通常の流れ。

ところが、太郎と次郎の注文が取引所のウェブサイトにのり、
それが太郎と次郎の使用しているコンピュータスクリーンに表示される
ほんの一瞬の前に、
投資家「未来」が、この太郎と次郎の売買の注文の情報を掴んでしまう。
そうすると、太郎が、次郎の売り注文をみて、1株98円で「買う」という
契約を「クリック」でする前に、
「未来」は、次郎から98円か、99円で太郎よりも先に、山田商事の株を
買ってしまう。
そして、「未来 山田商事 1株 100円 売り注文」を
出してしまう。
そうすると、太郎のコンピュータ画面には、
表示されるはずだった次郎の売り注文は消えていて、
「未来 山田商事 1株100円売り注文」だけが表示されていて、
そこから買うことになる。

この時間差が、1秒の何万分の1とか、ほんの一瞬のものだということ。
この時間差を「未来」がどうして稼ぐのかというと、
太郎や、次郎のコンピュータが、取引所のコンピュータとつないでいる回線とは
違う、回線をつかって、取引所から、売買注文の情報を得ているから。

その回線の正体は、アメリカの大手の通信回線の業者が敷設している曲がりくねった
回線ではなくて、「未来」が使っているコンピュータと取引所のコンピュータをもっと
短くつないだ回線。
通信事業者の回線が100キロメートル経由して太郎と次郎に情報を届けるとしたら、
この「特殊回線」は、50キロメートル経由で「未来」に届くみたいな。
このような「ショートカット回線」の敷設を思いつき、実際に、こういうインフラを民間事業者が
投資して作ってしまった。
そして、この「ショートカット回線」を、一般の投資家を出し抜きたいプロの投資家に
レンタル料金をとって、貸し出した。

この差額取引がよりスムーズに進行させるために、株取引のシステムを設計する
コンピュータプログラマーはWallStreetで引っぱりダコだった。
主に、東海岸情報工学や電子工学をおさめた人、または、今はなきソ連で理工系教育を
うけた移民などが、大手の金融機関でシステムの設計に関わっていたらしい。
このシステムの設計をするために、オープンソースのコードを使い回したロシア系のプログラマ
なども出てくる。

通信回線の使い方と、取引システムの設計のトリックによって
投資家の間の公正が侵害されていると思ったカナダの日系人
こういったHFTの手法で利ざやを抜くことができないような新しい取引所の
創設を思いつく。
そして、それを実際に作ってしまう。
そのための資金集めのために、大手の金融機関、機関投資家廻りをしたり、
実際に、立ち上げた取引所で、ある程度の売買がなされるように四苦八苦するところなども
本書の最後のほうに書かれている。

どうも、マイケルルイスの取材によると、
株式の取引による仲介手数料で利ざやをあげたい金融事業者と、
この手法を実行に移すために必要な取引システムを開発するコンピュータプログラマーの間に、
ぎりぎりな関係があった模様。
というか。
金融系は、利ざやをはねる手法は思いつくが、実行するためのプログラミングのノウハウがなかった。

プログラマー系は、システム開発のノウハウはもっているが、そもそも株式の取引で利益をあげる
手法についてよくわかっていなかった。
金融系のものの見方と、プログラマー系のものの見方の両方ができる人がいなかったから
WallStreet全体でみても、HFTの取引の実態がわかっている人がほとんどいなかったのではないかというのが
筆者の結論っぽい。