新装版 物理のABC―光学から特殊相対論まで (ブルーバックス)作者: 福島肇出版社/メーカー: 講談社発売日: 2007/05/18メディア: 新書購入: 1人 クリック: 9回この商品を含むブログ (13件) を見る

筆者 福島 肇(ふくしま はじめ)


1945年 兵庫県生まれ
1971年 東京大学教養学部基礎科学科卒業
小平錦城高等学校、駒場東邦高等学校教員を歴任。
創作科学読み物「光の探検」(コロナ社)で、1984年度東レ理科教育賞受賞
日本物理教育研究会 運営委員

という人が書いた物理イントロ本。

その昔、法学部の先生が、教科書の良し悪しを決めるのは
「論争的」であるかどうかと教わりました。
この本は、そのお手本なのではないかと思います。
「論争的」であることを、とことん追及したのは、こっちのほうが
先輩だったのかな・・・。

実験から、得られた事実をまず観察する。
その事実を、うまく説明できる理論の「候補」を挙げていく。
あえて、今は、通用しなくなっている「理論」も列挙していく。
燃焼という現象は、今では、物質に酸素原子が、くっつく、つまり「酸化」
という言葉で、説明される。

そこへ、あえて

「フロギストン」という物質が、あらゆる物質にあり、
火にかけられると、この「フロギストン」が飛び出すのが「燃える」
ということになる。

という、昔の有力説をもってくる。
日頃、目にする、直感的な現象の説明については、この「フロギストン」論法
でもなんとかなるという、トリックをしてみせ。
それでも、「フロギストン」説を使ったら、説明できない事実を列挙
していく。(燃焼した物質の質量は増加する→フロギストンが飛び出すということに
矛盾→理論の破綻)

他にも、
超有名論点
「光は、粒子なのか? それとも波動なのか?」
というのにも触れる。

光線が、水に入ると、屈折するという現象。
狭いところから、光線が出て行くときに起きる「回折」という現象。
光線は、鏡などに当たると、「反射」するという現象。

その現象ごとに、実は、どちらの説でも、整然としたロジックで現象が
説明できることを、論証する。

その上で、

「屈折」した光の速度は、「屈折」する前の光の速度に比べると、
速くなるのか。遅くなるのか。

という問題を設定する。

回転する鏡に、光線を当てる実験装置を使って、水に光線を通し、
水中の光線の速度を、測定する。

ここから、記憶が曖昧だけど、
実験の結果
 速度が、遅くなっていたら→波動説の勝利
 速度が、速くなっていたら→粒子説の勝利

こんな感じで、物理の世界での歴史的論点を、まさしく論争的に
展開・考察していく。
Detailが問題ではなく、ある事柄について、「教科書」を記述する際に、
どういうことが、大事なのかということを、痛切に感じます。

実験→事実→仮説→実験による検証→仮説の再構築→仮説から導出される理論的帰結の
実験事実による検証→仮説の再構築

このサイクルのうねりが聞こえてくるようです。

受験問題は、はたして、暗記だけで、太刀打ちできるのかどうか
という古典的な問題意識ともリンクするように、思う。
理科の問題作成者も、難関有名私立であれば、あるほど、受験生が
対策を練ってくるのは、熟知している。
じゃあ、どうやって、受験生のハシゴを外すのかとなると。
やはり、こういう思考方法にそって、学生を試そうとしているのではないかなとか。
そんなことを、思った。