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本書は、新幹線とフランスのTGVを技術者が、分析・比較するという
本です。
しかし、「事業投資」の勉強という観点からも、面白いと思います。

前回、「会社の値段」という書籍を紹介しました。
企業価値評価は、「なんでも鑑定団」の会社版 - book-loverの日記
そこから、抜粋します。(33ページ)

自由で開かれた市場システムを維持・発展させるには、大変な手間と労力が
かかります。これを長い歴史をかけて作り上げてきたのが米国です。それに比べると、明治維新以降
欧米を模範として民主国家を作ってきたとはいえ、日本の経済システムは長い間資本主義の原理原則
とはやや違った形で発展してきました。自由な投資家のリスクマネーによって自由な民間の起業家活力
を引き出し、発展させた分野や事例は限られていて、むしろ、国の富は銀行や国に蓄積され、優秀な
官僚が行政指導をしながらその投資配分を政策的に決めることによって経済発展を実現してきました。
政治家と官僚と民間企業が一体となり、欧米先進国に追いつき追い越すことを目標に最短距離を
突っ走る場合、そこには個人の起業家精神や、リスク覚悟で投資資金を集めるための「安心で
フェアな株式市場」作りが重要視される土壌はなかなか育ちません。どの会社にどういう形で資金を集めるか
の判断は、政治家や官僚と緊密に連携をとっている銀行任せでよく、会社のM&Aにおいても、銀行や関係
省庁の意向が重要でした。

会社に値段をつけて売り買いする、そのために投資家が安心して構成に株式売買をする制度を整え市場を
育成する、そんなまどろっこしいことをする必要性はなかったのです。
これは、資本主義というよりも社会主義に近い経済システムです。日本が経済成長を謳歌し欧米から脅威
とみなされていた時期に、彼らから「日本は世界で最も成功している社会主義国家」と
皮肉られていたのはこのためです。

教科書的にはとても問題ない記述ですが。
では具体的にどういうことなのかを、このページだけ読んでも納得がいきません。
以下、鉄道という事例を通じて、
日本で、巨大事業が、勃興するときには、必ず、日本政府つまり、その事業を管轄する
省庁が、投資家として登場するということを、理解しましょう。


「図解 TGV VS 新幹線」 68ページ

鉄道の経営形態

複雑なシステムをどのような組織で運営するかが課題である。歴史的には、鉄道会社が路線を決定して、
線路を建設し、車両を購入して自ら列車を運行していた。19世紀から20世紀前半までは、鉄道が収益を生む事業であり、鉄道事業単独で経営が成り立っていた。産業革命先進国の英国や米国では民間資本による多くの鉄道の
建設がされた。

当時はこう茎や自動車が未発達の時期であり、国家経済、国防における鉄道の役割は大きかった。国策として産業革命を進めたドイツ、フランスや日本では、幹線ネットワークを構成する鉄道については、国が建設し、運営することが求められ、国が中心となって鉄道を建設した。国の鉄道とは別に、州営鉄道、民営鉄道もあったが、
第二次大戦頃までには、民間資本で建設された鉄道も国有化された。
20世紀後半は、航空機、自動車の発達によって、鉄道の独占が崩れ、大規模な投資を必要とする鉄道事業の収益が悪化し、都市間旅客輸送や貨物輸送を除いて、運賃収入だけでは、投資のみならず運営経費も賄えないようになり、公的資金の投入が必要になってきた。このような背景から国鉄の経営改革が日本とヨーロッパ各国で進められた。

新幹線と国鉄の分割・民営化

東海道新幹線開業直後から国鉄の経営は急速に悪化した。新幹線建設や在来線改良工事のための投資資金を鉄道債券で調達した結果、長期債務が膨らみ、その利払いが経営を圧迫するようになった。東海道新幹線は高収益となったが、在来線は低い運賃水準、シェアの低下および合理化の遅れにより収益が悪化した。東海道新幹線の収益で在来線の赤字を補填する状態となり、整備新幹線計画決定の前年には、国鉄償却前赤字を計上している。
このような中で、山陽新幹線、東北・上越新幹線の建設がすすめられた。
東北・上越新幹線が部分開業し、新幹線延長1800kmとなったときには、経営改革のために国鉄を分割・民営化することが決まり、長期債務等を国鉄清算事業団に移したうえで、1987年4月にJR各社が発足した。国鉄清算事業団はその後、「鉄道建設公団」に統合された。
 分割により、新幹線のインフラは「新幹線保有機構」が所有し、東海道新幹線東海旅客鉄道(jR東海)、
山陽新幹線西日本旅客鉄道JR西日本)、東北・上越新幹線東日本旅客鉄道JR東日本)がそれぞれ運営して、新幹線保有機構にリース料を支払うようにした。
国鉄の長期債務返済方針のひとつであった。しかし、整備新幹線建設資金捻出のため、新幹線施設の価格を再評価したうえで、JR各社が買い取ることとなり、新幹線保有機構は解散した。
 民営化後、整備新幹線の建設は鉄道運輸整備機構(元の鉄道建設公団、現独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)が担当しているが、その資金は国が2/3、地方自治体が1/3を負担する。国の資金の一部は新幹線買取資金が充当される。完成後に、それを利用するJRが採算の取れる範囲内でリース料を支払い、平行する在来線もJRから切り離すことになった。これにより、旅客需要が少なく採算性の良くない整備新幹線公的資金
建設し、運営する会社にも経営上の負担を生じない枠組みができあがった。

「会社」=「事業運営の形態」
これを売り買いするというもので、巨大なディールは常に、日本政府がプリンシパルとなって、
実行されてきたということです。

「新幹線施設の価格の再評価」

これこそが、まさに、「会社の値段」だったのでしょう。きっと。

本書の目次

はじめに

日仏主要車両・世界の高速鉄道

1章
プロローグ

1-1 パリ・リヨン駅からの旅立ち
1-2 東京駅からの旅立ち

2章TGVと新幹線の歩み
2-1 旅客輸送量と距離帯別シェア
2-2 開発コンセプトの比較
2-3 世界記録挑戦はいつもTGV
2-4 TGVが安くできたわけ
2-5 航空機と仲良しのTGV

3章鉄道システムの比較
3-1 鉄道をシステムとしてとらえる
3-2 鉄道の経営形態
3-3 技術規制

4章 高速鉄道ネットワーク
4-1 新幹線ネットワークの発展
4-2 TGVネットワークの発展

5章 営業システム
5-1 運賃比較
5-2 乗車券の日仏比較
5-3 常に混雑する駅窓口
5-4 インターネットによる切符販売

6章 列車運行システム
6-1 ダイヤと列車種別
6-2 国境を越えるTGV
6-3 混雑時期への対応
6-4 列車運行管理
6-5 列車の整備

7章 インフラストラクチャー
7-1 建設基準
7-2 軌道
7-3 騒音対策
7-4 電気システム
7-5 電車線とパンダグラフ
7-6 信号システム
7-7 インフラの保守
7-8 車両基地と車両保守

8章 車両技術の概要
8-1 車両のシステム構成
8-2 車体
8-3 プロパルジョンシステム
8-4 台車と駆動装置
8-5 ブレーキシステム

9章 TGVと新幹線両比較(第1世代)
9-1 日本ー新幹線電車開発までの道のり
9-2 フランス-TGV-SE開発までの道のり
9-3 国鉄末期の新幹線電車

10章 TGVと新幹線車両比較(第2世代)
10-1 同期電動機から誘導電動機へ
10-2 高速化、輸送力増強への試み

11章 TGVと新幹線車両比較(第3世代)
11-1 ネットワーク拡大への対応
11-2 高速列車開発の集大成

12章 世界市場でのTGV VS 新幹線

13章 文化の違いと高速鉄道

おわりに
参考文献
さくいん