オイラーの贈物

オイラーの贈物

筆者 吉田 武(よしだ たけし)
http://www.junkudo.co.jp/sugaku_buturi.htm

昭和63年 京都大学工学博士(理数工学専攻)

文庫版まえがき

「世界の名著が手軽に入手できる」はずの文庫の世界においては、さらに極端である。いかに声望の高い歴史的名著であっても、記述の本質を数式に頼る、数学、物理学の著作は、
その版型の小なるが故に、文庫化を拒まれてきた。読者を広く求めるために、安価で形態の利便性にすぐれる文庫は抜群の存在である。果たして、文庫における数式記述は不可能なのであろうか。それほど、読みがたく、商品としての価値のないものなのであろうか。本書はこの問題に対するささやかな挑戦である。例のごとくのドンキホーテである。この無謀な企画にご賛同いただいた筑摩書房に中心より御礼を申し述べる。願わくは、本書が突破口となり、さまざまな理工系専門書が文庫化されんことを、そして、書評欄にもごく普通に取り上げられ、その記述の巧拙が広く論じられるような新世紀にならんことを。心から祈っている。

時に、2001年、宇宙のたびにも文庫なら気軽に携帯できよう。 筆者

巻末 文庫版あとがき

出版界は、”前例”によって動いている。類例のないものを出版する際、そこには、常に”挑戦”の二文字が掲げられる。拙書「虚数の情緒」においては、千ページのその巨体が最大のネックとなった。今回は、可読性との戦いであった。出版社ひの常識と筆者の非常識のせめぎあいである。例によっての例のごとく、大難渋の末、ようやくここにいたったわけであるが、小さな版型の欠点をしのぐ、可搬性の便を、専門書をいつでもどこでももちあるけるその爽快感を、評価していただきたいと思う。こうした新しい挑戦に対して、読者のご指示が得られればそれはよき前例として出版会に定着し、理工系の書籍の出版の窓口が大いに広がるのではないか、と狸の皮算用をしている。

ゲームプログラマになる前に覚えておきたい技術

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平山氏 参考文献リスト トップバッター

文庫の体裁をとる数学の教科書は珍しく、それだけでも価値があるのだが、「「オイラーの公式」を理解するのに必要な知識を一から説明する」というコンセプトが大変すばらしい。多項式、指数関数、三角関数微分積分などなど、高校までの数学プラスアルファが一冊にまとめられており、非常に便利である。説明も読みやすい。気合の入った中学性なら読める内容だ。この本に書いてある範囲の数学が物になっていればゲームをつくるのに、支障はないだろう。このレベルができていない人などいくらでもいるが、それでもゲームはつくれているだから。なお、かなしいことに在庫がきれているようである。たくさんんの人が電話で問い合わせれば重版されるかもしれない。


本書についてのコメントをブログでリサーチしてみました。

虚数の情緒」の方になりますが。
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya1005.html

松岡 正剛氏

 著者は『オイラーの贈物』(海鳴社)で評判をとった。1993年のことだった。京都大学の西村孟名誉教授から文系教養科目として数学を講義してほしいと頼まれ、1年にわたってオイラーの公式だけを教えようと決意した。そのおり試みた講義録からの成果の書物版が『オイラーの贈物』で、徹底してオイラーが用いた複素数(とりわけ虚数の効力そのもの)の意味を理解させることに専心している。

うだうだWeblog: 吉田武「オイラーの贈物」ちくま学芸文庫
どうやら、大学の数学研究者の人みたいです。

幸谷 智紀 講師
略歴
1997年 日本大学大学院理工学研究科(数学専攻)博士後期課程修了
1993年 雇用促進事業団(現 雇用・能力開発機構)石川職業能力開発短期大学校講師
1998年 静岡理工科大学 講師(理工学部
2008年 現職

で,この度,複素解析の講義を持つことになり,あっちこっちの文献を調べまくった中で,本書も再読することになったのだが,その際やっともてはやされる理由が分かったのである。
 そうか,新しい視点を導入しなかったのが美点なんだ,と。手垢にまみれたネタを,より丁寧に具体的な計算例を交えて解説することに徹した,それが支持される理由だったのだ,と合点がいったのである。

吉田のこの本は,大学理工系の線型代数微分積分を本式に習った人間ならば,一度は聞いたことがあるテーマばかり扱っている。でも扱い方は非常に丁寧で具体的だ。「計算」の範囲で可能な説明を具体例を交えて行っているので,もしこれでその節の解説が分からないようなら,大学の基礎数学を学ぶための基礎教養に欠けていると言わざるを得ない。もう一度,高校までの教科書をひっくり返して勉強し直すように。
 逆に言えば,本書の解説は「計算」が及ぶ範囲の「数学」,いや基礎解析学に留まってしまっているのである。「え,こんなに分厚い(文庫本500ページ超)のに?」と訝しげに思われる方もおられようが,そうなのである。線型代数微分積分学+(初歩の)複素解析,これに数値解析のフレーバーを効かせたのが本書の内容の全てなのだ。それが悪いというのではない。いや,それこそが本書を数学書としては異例の売れ行き(って具体的な発行部数はシランけど)に繋がった理由なのである。計算が届く範囲の内容と解説に徹底して絞った自学自習書という狙いを持ったからこそ世間のレベルと要求にジャストフィットし,見事なマーケティング的成功を収めたのである。

アルファ・ブロガー Dan Kogai
404 Blog Not Found:2008年のお年玉で買うべき本10冊

この本、あまりに多くのentriesで推して来たので、単独entriesがなかったりするんですよ。

この一遍の式は、確かに人類の至宝と呼ぶにふさわしい美しさがあります。しかし美しいだけではないんですよ、この式。すさまじい破壊力があります。この式の美しさには、戦闘機だとか軍艦だとかに通じる、力をともなった美しさがあります。

私の妻は、三角関数で引っかかって数学が嫌いになったそうです。しかしこの式にたどり着く前に挫折してしまうというのは、203高地にたどり着く前に倒れてしまうほどもったいないことなのです。なにしろ、この式を「制覇」してしまえば、三角関数はつるべ撃ちにしてフルボッコに出来てしまうのですから。

そのeiπ=-1という高地に上るための、最も易しく優しいガイドブックが、本書です。ですから、本書は「読む」のではなく「使う」必要があります。実際にページをめくるだけではなく、数式を「写経」してみてください。リズムをつかんで下さい。急ぐ必要はありません。この至宝は、誰でも時間をかければ上り切ることが出来る山なのですから。