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- 作者: ジェイムズ・P・ホーガン,池央耿
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1980/05/23
- メディア: 文庫
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wikipedia:ジェイムズ・P・ホーガン
SF作家ジェイムズ・P・ホーガン 逝去|お知らせ|東京創元社
45P
「この種の穴は月面では皆無というわけではありません。」
コールドウェルはいった。
「しかし、そうやたらに見られるものでもありません。それで、調査隊は念入りに調べる気になったのです。中はかなりひどい状態でした。落盤でしょう。それも、何度かあったようです。洞窟はほとんど埋まっていました。砕石と土砂で。少なくとも、最初に見たときはです。画面が変わって、彼の言葉どおりの光景が映し出された。「ところが、さらに奥を調べてみると、実におどろくべきものがみつかりました。土砂の下から、なんと死体が出てきたのです。」
エピローグ
「何だというんだ。これはいったい?」教授は叫んだ。彼はまるで汚らわしいものをつかむような手つきでその得たいの知れぬ出土品を持ってストーブの傍らにもどった。
マゲンドルフは唇をしかめて、肩をすくめた。「それをみせたかったんですよ。」彼は言った。「イヨマットが、ほかのものと一緒に出たって言うものです。」中略
それはロングサイズのタバコの箱ほどの大きさで手首にはめる帯がついてた。表側に超小型ディスプレイ装置をおもわせる4つの窓が開いていた。クロノメーターか加算器、あるいはその両方の機能を兼ねて、さらにほかの機能も併せ持つ装置であると想像された。裏側と中の部品は失われ、残っているのはところどころひしゃげてへこんだ金属のケーシングだけだった。それは不思議なほど腐食の後が無かった。
ハテナのブックマークサービスでよく最近、よくマークされている「作品」だなと思っていたら、つい最近、筆者が逝去していたことをようやく知る。
タイトルも、すがすがしくて、なんとなくひきつけられた。
ちょっと落ち込むことがあり、なんとなく現実逃避したいような気分にもなっていた。ために、ハテナのダイアリーでこの小説の紹介を目にしてみる。
「月の世界で、死体が発見される」
というオープニングのことが取り上げられてた。
日々の日常に埋没している人間にとって、なんとなく生活感が吹き飛ぶような
そんな心持になった。
小説のアイディアというのは、それが傑作になるのか、うずもれてしまって人に忘れ去られてしまうのか紙一重なんだなと思う。
事件が起きて、死体が発見される。
発見した側は様々なリソースを動員して、どうしてこの場所に、この時間に
この死体があるのかという、原因と結果の因果関係を明らかにしていく。
シャーロックホームズや、名探偵ポワロ、明智小五郎の登場する物語であれば、
この事実が明らかになっていく過程で様々な人間模様なども出てくるのだろう。
たしか、松本清張の「点と線」などもそうだったような気がする。
何を述べたかったというと、「死体」を取り扱うミステリアスな作品というのは
はるか昔から山のようにあったということだ。
その中から、傑作と思わせる「殺人ミステリー」というものを生み出すのは
作家といわれる人にとってはとてもハードルが高いことなのだろうと思う。
この「星を継ぐもの」という作品ではその「死体発見」の現場が月だった。
宇宙の環境
無重量状態とは何か?
地上で重力を感じるのは、地面が体重などをささえているからです。それは、止まっているエレベーターも同じで床が体重をささえています。いま、仮に突然エレベーターの綱が切れたとすると、中に乗っている人も、エレベーターの床も、重力に引かれるままに同じ速度で落下します。すると、それまで体重をささえていた床がなくなってしまうことになり、エレベーターの中は無重量(無重量ともいいます)状態になります。つまり「無重量状態」とは、他からの力がはたらかず、重力に引かれるままの運動、重力に身をまかせた運動をする場合になる状態のことです。
こういうところを、プロローグに持ってきたときに、この作品は傑作に
なることが決まったのではなかろうかと思う。
宇宙のイメージというとどんなものが浮かぶのだろうか。
生活感がない。
格好いい。
ロマンチック。
宇宙飛行士。
壮大なイメージ。
華麗。
神秘的。
冒険のイメージ
自然科学
「死体」とか「殺人」のようなものにつきまとうイメージは?
血のにおい
残酷
じめじめ
暗い
犯罪
警察
法律
医学
操作
人間の死体というのはタブーの塊だと思う。
できれば、触れておきたくない、そんなものの代表格。
そういったものを、作品で扱うなかで、この作品の筆者は
「宇宙」「月世界」という壮麗な装束で「死体」を包み込んだように思える。
そして、それが「組み合わせ」の妙を生んで、
読者が、一気に小説の舞台に引き込んだのだろうと個人的には思う。
というわけで、オープニングに関することだけを書くことになった。
もちろん、これは物語のさわりであるから、この後、筋はずっと続くことに
なるのです。
2箇所目に引用した場所は、物語のトリックを解く「決め手」であるのと同時に、
トリックを解くための「無数のジグソーパズル」の中の一つになっている。
筆者の自然科学の知見が総動員されて、この「死体」「チャーリー」は
様々なことを、人類に語り伝えることになる。
はっきりいって、この謎解きの「過程」の部分は、よほどのSf好きでない限りは
字面をおっているのがかなりしんどいのではないかと思います。
だからこの作品の筆者が「ハード」SFの分野属していると評されているのかなとも思う。
「ガリレオ」を書いた東野氏などもある意味でSF作家といってもいいのではないかと思いますが、なんというか、こういう人の作品のほうが、読者にやさしいなと思う。
ホーガンのこの作品は、読者に無言の圧力を強いているような気がしてならない。丁寧に読んでいくのもかなり骨にこたえる。
なにがいいたかったのかというと、月面に「死体」を登場させるような鮮やかな「引き込み」がないと、その後の、物語にひきずりこむのが大変だったのでは
ないかということ。
一歩間違ったら、誰にも振り返られない作品になっていたのではないかなと、
だからこそ、思ったりするのです。
イメージや印象というものがもっている力はバカにならないなと。
そんな風に思うのです。
「はじめが肝心」「終わりがよければすべてよし」みたいな。
そう、この作品の「結末」「終わり」なども、とても印象に残ります。
作品解説|東野圭吾ガリレオシリーズ特設サイト『倶楽部ガリレオ』|文藝春秋
「第一章 燃える」
街路にたむろしていた少年たちが火災に見舞われ、一人が死亡する事件が起きた。目撃者証言によれば、焼死した少年の後頭部が突然発火し始めたという。特別な熱源のない場所で、なぜそのような現象が起きたのか。一部で囁かれる、プラズマによる自然発火説の実現の可能性を確認するため、警視庁捜査一課の草薙俊平は母校・帝都大学工学部物理学科で教鞭をとる、かつての学友・湯川助教授を訪ねた。彼の提示する驚くべき仮説とは?
事件捜査の主体に科学者あるいは「自然科学」を操る組織を持ってくるという手法は、古典的なものなのですな。そしてそれは手をかえ、品を変えて、
現代の旬の作品も応用されていく。
イギリスで、医師を助手にしていたシャーロックホームズが登場したかと思えば、日本列島では、大学の先生が名探偵になる。
かと思ったら、宇宙世界と、「事件」が結びついているのです。
「死体」や「月の世界」という結びつきの中で、なにか面白いトピックはないかとネットの中をさまよっているところ。興味深いブログエントリーに出会う。
これ80年以上前の少女の「死体」なのだそうです。
宗教上の風習で、亡骸がしばらく保存されるように、「加工」が施されていて、
多くの亡骸の中で、彼女の亡骸だけが、こういうと不謹慎ですが「うまいこと」
残ったとのこと。
いやほんとうに、びっくり。眠っているのかと思いました。
いますぐにでもおきだしてきそうです。
でも、彼女はもう、80年以上までに死んでしまっているのですね。
なんだか、不思議です。
彼女は、サラフィアという医師の手によってミイラにされたのですが、どんな薬剤を使ったのかその処方箋は、未だ謎のままなのです。
彼女の場合も、「ベルナデッタ」「カタリナ・ラブレ」と同じく死蝋(しろう)で、湿潤かつ低温の環境において、腐敗菌が繁殖しない状態にし、外気と長期間遮断された結果、腐敗を免れ、死体内部の脂肪が変性し死体全体が蝋状・チーズ状になったのです。
「星を継ぐもの」は1977年の作品。
もうかなり世に出て時間がたちました。
一昔といっても差し支えないものです。
この女の子の死体を眺めていると、80年前という時代ですら
なんだかあまり遠くないものに思えます。
このような亡骸があると、白黒で見ていた昔それ自体が、カラーに
なって、現代によみがえってくるようなそんな心持にすらなります。
最近、友達にYOUTUBEで、戦前の日本、東京の風景が見ることができる作品を
教えてもらった。
かなりの衝撃をもって、見たのを記憶している。
あまり変わっていないなと、本当に思うのだ。
夏休みも、もうすぐそこまで来ている。
世の中の学生の皆さんは、いつもよりはゆっくり時間が確保できることでございましょう。
そういう時期に、ちょっと読んでみるのにはそんなに悪くない作品だと
思います。
「星を継ぐもの」
なんだか、まとまりのないエントリーになってしまいましたが、
SFってジャンルもありますよってことで。