起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと

起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと

このエントリーの趣旨は、この本の書評です。
いきなり、この本の内容について何かを書き始めるという形式のほうがいいのだろうとも
思うけど、それだけだと、どうも面白みがない。
ちょっとしたことでいいから、このエントリーを書く人間のオリジナリティみたいなものを
出してみたい。自分で運営しているし。
だったら、なにか、この本の内容と無関係ではないような何かと組み合わせたらいいのでは
ないかと思いました。
この本それ自体は、新しく会社を設立して事業を初めていくときにどうやって
事業資金を調達するのかということや、成功させた事業をどうやって、経営者や投資家の
「報酬」にしていくのか、または「回収」をしていくのかということについての
ノウハウをあつかった本です。
世の中いろいろと難しいことが多い訳ですけど。会社をつくってそれを成功させるなどというのも
大変なわけです。きっと。
そういうところに責任をもって、お金を出していくという仕事も大変だし、
まかされたお金を、数倍にしないといけないというプレッシャーを背負って、会社の
社長をやるのもそれはもうしんどいことだと思います。
でも、そういう高い高いハードルを超えていく極一握りの経営者が現れる。

Apple - Apple Events - Apple Special Event October 2010
アップルという会社の新製品発表のプレス・リリースのイベントが
話題を読んでいたのでタイミングを外しましたが、鑑賞しました。
英語の勉強もかねています。
英語の勉強で一番大事なのはやはり「楽しむ」ことです。
全世界でヒットを飛ばしている旬の企業のリーダーが、どんな構想を
打ち出すのか。
そんなことを、そのリーダーのオリジナルな言葉で理解することができたら
そのほうが楽しいですよね。
そういうモチベーションを大切にしたら、地道に英単語を覚えたり、
リスニングの教材をコツコツと継続させて、トレーニングを重ねるように
なると思うのです。
しかも、アップルのイベントは、人が単に話をするにとどまりません。
映像があります。パフォーマンスがあります。
ものめずらしい機能をもった新製品の数々が登場します。
デモがあります。
このイベントで発表された商品の内容そのものについてのエントリーは
すでに無数の傑作が登場していることと思うので、
「プレゼンテーション」というものへの評価という観点からすこし
いろいろ書こうかなと。
売り上げ何兆円という会社のやることですから。それこそ広報なんて
やろうとおもったってできない、目もくらむような巨大オペレーションが
選抜を勝ち抜いた優秀な頭脳集団によって実行されて、飛ぶように
売れていく商品が生まれる。
でも、商品がいいという、それ「だけ」ではきっと何かが足りなくなる。
「いい」商品を作り上げていくという行為の見えない背後にどれだけの
血と汗と涙があったとしても、その「商品」をお店の向こう側にいる
「ユーザー」に届けることができなかったら、その血と汗はみごとに
甲子園の土となって消えてしまうのだろうなと。
甲子園出場や、プロ野球選手へのスカウトを夢見て、それこそ
数知れない高校生が、毎日努力しても、ドラフト会議に登場するのはごく
一握りみたいな。
スポットライトにあたる人間と、スポットライトのあたらない人間の
運命を分ける何かというのは、それこそありとあらゆる局面で
存在するのだと思う。
そういう競争の厳しさを知り抜いた名経営者が、会社の業績に対して
全責任を負いながら、新商品発表にのぞむ。
そして、「最後の一押し」をBack to The Mac できめる。
この会社の社長のプレゼンテーションがすばらしいということはそれ自体が
ひとつの書籍のジャンルを形成している。
それだけの「一押し」をする。
世の中の圧倒的多数の人間は、日常の会話においてさえ、
「自分は、誰に何を伝えたいのだろうか?」ということがよくわからないままに
生きているのだろうなと思う。
少なくとも、このプレゼンをみていて、自分はあいまいに生きているのだろうなと
思う。
そこまで突き詰めていないというか。そんな感じか。
このパソコンやソフトウェアが販売不振だと、自分は首になるという
状況で、さあ、とにかく消費者に対して、うちの新製品をアピールして
買ってもらおうというストレートな心情がこれ以上ないという洗練された
オペレーションの形をとって「表現」される。
グローバルにコミュニケーションをするというのはこういうことなのか。
印象の残ったのは、
MacBookAir 11インチモニターの紹介をするとき、
アップルの社長は「 brother 」という言葉をつかったことだ。
13インチの商品を意識しての表現。
金属でできた製品をこういう表現でさらりという感覚に驚く。
テレビのコマーシャルで、工場で勤務する人間が、生産機械に
女性の名前をつけて呼ぶというシーンがジョークまじりに取り上げられて
いたことがあった。僕の記憶ではそうやって、生産機械に女性の名前を
つけて呼ぶ工員に対して、ちょっと不気味そうなそぶりを見せるスーツの
人間が、登場していたような気がする。
そう、シーンやタイミングを間違えたら、とても不気味に思われるような
ことを、この会社社長は、さらりとする。
コマーシャルのネタになるような、もの作り系の人のスピリットのような
ものは共有していても、なにかが違う。
そういう泥臭さの見事な消去テクニックが、アップルという会社の広報宣伝活動を
グレートの高いものにしているのだろう。
そして、こういう世界を代表するような会社も、最初はゼロというところから
スタートしていたと。
アップル インコーポレイテッド - Wikipedia

同社は、1977年1月3日に設立されて以来“Apple Computer, Inc.”を名乗っていたが、2007年1月9日 (PST) に事業内容を反映させ、現社名の“Apple Inc.”に改称した[5]。

それでは、アップルについてのエッセーを書き加えたところで、このエントリのメインである
「起業のファイナンス」を読んでの雑感を記したいと思います。
やれやれ、原稿用紙を10枚うめるものを作るというのはなにかと大変だ。すぐにアイディアが枯渇しそうです。
常に、何をアウトプットして書いたらいいのか考えるトレーニングになります。
日々の修練ですな。
ちょっと本書の目次でもみてみましょうか。

序章 なぜ今「ベンチャー」なのか?

第1章 ベンチャーファイナンスの全体

第2章 会社の始め方

第3章 事業計画の作り方

第4章 企業価値とは何か?

第5章 ストックオプションを活用する

第6章 資本政策の作り方

第7章 投資契約と投資家との交渉

第8章 種類株式のすすめ

この書籍に書かれている内容に関連したエントリーはすでにいくつか書いているように
思います。すこしそんなものを振り返ったりもしてみましょう。
企業価値評価は、「なんでも鑑定団」の会社版 - book-loverの日記
いま、振り返ってこのエントリーを読んでいるとはずかしくなってきますが。
まあ蓄積というのはそういうものだと思います。
何がいいたかったかというと、ベンチャー企業のファイナンスということを理解する上でも
「会社の値段」のような書籍のほうが、本質をついた説明になっているかもしれないということです。
僕が学生の時もそうだったけど、生計を立てる手段として、「働いて給与」をもらうという
選択肢以外、考えたことがなかった。別に周囲に自営業者の人がいなかったとか、そういう
わけではない。
でも、まあ、父がサラリーマンだったこともあり、「お金を稼ぐ」というのは「給与」をもらう
ことだという固定観念のようなものがあった。
司法試験の勉強に打ち込んでいた時期があったときは、プロフェッショナル志向だったのだと
思う。
その時、念頭においているのは、今考えると、「独立性」だったのではないかと思う。
サラリーマンをやっている人から、「弁護士」だといざとなったら、組織の外に飛び出しても
生きていくことができるよねみたいなことをいわれたことがあった。
そんなことをいわれても、苦労知らずの学生に意味が感覚的にわかるはずもない。
言葉によるコミュニケーションには、限界があることを、できればこの時に知っておきたかった。
話を戻す。
自活していくために、お金を得る手段というのは、結果よければすべてよしではないけど、
複数あっていいし、そのなかで、自分に一番あった方法を使えばいいのだと思う。
そして、僕は、はじめて入社した会社がIPO を果たしたばかりの会社であったにも関わらず、
会社をゼロから設立して、その株式のオーナーになり、事業がうまくいったら、株式を
資本市場で売却して、巨利を得ることで、お金を稼ぐというキャリアの積み方に、実感を
もつことがなかった。
そういう成り立ちで、成立した会社だったのに、なにか遠い空のむこうで起きているような
気がしていた。
会社のオーナーになって勝負して、成功したら、給与所得で生きていく人生とは比較にならない
資産をもつことができるという切実さというものをあのときは、なにももっていなかったなと思う。
でも今の仕事をするようになってから、世の中の一端のようなものを知る。
お金をもっている人もいれば、もっていない人もいるという、でこぼこなことも知る。
そして、自分がどんな階層に所属しているのだろうとか。階層と階層の間には橋がかけられているのだろうかとか。
向こうの世界にいる人間は超人なのだろうかとか。
自分の人生の可能性って、何なのかとか。

あれあれ、純粋なビジネス系の書籍なのに、自分の身の上話みたいになってしまった。
いや、こういうことを考えさせる要素があるということは、この本の性格の何かを示しているのかも
しれません。
もうそろそろ、当初の目標だった原稿用紙10枚のラインを超えることができます。
今回は比較的楽にこえることができました。
おそらく、本書の内容が、わたしが学生時代に打ち込んでいた「商法」の勉強に関連している
からだと思います。やはり、昔とった杵柄というものはあるのかなとか、そんなことを思います。

株式会社法

株式会社法

僕が、司法試験受験生だった時、商法の勉強で使っていたテキストがこれでした。
この教科書に内容が、どれだけ先進的だったのかということが、逆にこの磯崎本を読むことで
明確になります。
江頭先生は、「今の商法学のテキストは、すでに株式上場をしている大企業を念頭に書かれている。
それは、裁判実務に照らしても、実態を反映しないものだ。世の中の企業の圧倒的多数は中小企業なのだから、
商法学のテキスト、会社法学のテキストも、中小企業、カタカナでいうとベンチャー企業を念頭においた実務にも
役に立つテキストが望ましい」
みたいな、そんなコンセプトで書かれた教科書だったと思います。
あれから10年以上経過して、一般書のレベルでも、こういったベンチャーファイナンスの書籍が
登場したわけです。
しかしながら、フロンティアというものは、常に過酷な環境なようで。
磯崎本の20ページ

シリコンバレーでは、ベンチャーキャピタルが1社あたりに投資する金額が大きいので、弁護士も1時間
500ドルとか700ドルといった単価で、数十時間以上作業した金額がチャージできているようです。
現在の日本ではまず考えられませんが(へたすれば仕事1件でその1時間分程度の金額ということになって
しまうかと思いますが、
)できる起業家がたくさん現れる会社になり、ベンチャー企業の世界で仕事をしていただける時代がくるかもしれません。また、同じパターンのファイナンスが多数発生していけば、よく考えられた書類も「ひな形」化して、非常に低コストで作れるようになります。

こういう生臭い記述を読んでいると、逆に磯崎氏という公認会計士が、「お金では何か」という
志をもって、この本を書いたのかなとか、そんなことを感じます。

磯崎本 329ページ

本書は、わたしが今までに書いたブログ、メールマガジン中央大学法科大学院で大杉健一教授と共同で
3年間担当させていただいた「ベンチャー・ビジネスと法」の講義内容、アゴラ起業塾セミナー「起業家の
ためのファイナンス講座」の内容などをベースに書き下ろしたものです。

そうか、法学部や経済学部で勉強した内容を売り物にするというのはこういうことなのだなと、そんな
ことを思いました。

いろいろなことをかき散らしていると、自分の中でのコンセプトのようなものがぐらぐらに
なっていくような気がする。
いや、それでいいのかな。こうやって、言葉にしていくことで、自分自身を、知らなかったことを
自覚できるのかもしれない。
先ほども、書いたかもわからないけど、
人がいきていくための「所得」を得る手段は複数あるのだと。
それはある人は「資産運用」かもしれない。
ある人は、会社で勤務して「給与所得」を得ることかもしれない。
そのなかで、広義の「資産運用」として、自分が会社を立ち上げるための資本を用意して
(もちろん他人資本の調達もありだけど。)、自分で、段取りして発行させた株式を
値上がりさせて、高く売り抜けるという「所得」を得る手段もあるのだという、感覚。
「起業」というマジックワードに、振り回されているような気がするのはわたしだけかな。
そして、この「感覚」を妨げている最大の要因が
事業」を「売買」の対象にするという「感覚」の欠如なのだと思う。
近所のタバコ屋で、300円か400円を出して、タバコを1箱買うということを理解することは
みんなできると思う。
しかし、「株式」というものを売買することで「事業」そのものを売買する。
「ある会社の支配する権利と、収益をうける権利」を、売買するという感覚はどれだけの
人が理解できるのだろうか。
わたしは、法学部で、商法学会社法学を単位まで履修したにも関わらず、この感覚が
理解できていなかったように思う。このことは、どこかのエントリーで書いたかもしれない。