書評「電子部品だけがなぜ強い」

電子部品だけがなぜ強い

電子部品だけがなぜ強い

日本最初のテレビCMは、1953年(昭和28年)8月28日に日本テレビで放映された、当時の精工舎の時報である。当時の放送関係者の証言によると放送機材の操作に慣れていなかったため、フイルムが裏返しだったので音がまったく出ず、音なしの状態で30秒間放送された。当時のフィルムの場合、映像の横に音を再生するためのサウンドトラックがあり、フィルムが逆向きになると音が再生されなかった。なお、時報音はフィルムと関係なく挿入されたため正確に出た。ちなみに、同日の午後7時の時報は無事に放映され、これが現存する日本最古のテレビCMである。翌日の正午、テレビCM第1号になるはずだった正午の時報も無事に放映された

ブランド王国スイスの秘密

ブランド王国スイスの秘密

ご存じの通り、スイスの時計産業は機械式の時代には高い競争力を持っていたのですが、クォーツ時計が発明されると日本企業が世界を席巻しました。そこからスイス時計産業は復活したのですが、その省庁がスウォッチグループでしょう。同社が1983年に発足した際には、スイス3大銀行が資本参加し、事実上の銀行管理下にあったそうです。その後、時計をファッションとして設定しなおしたスウォッチがヒット、持ち株会社の下に、ブレゲブランパン、グラスヒュッテ・オリジナル、ジャケ・ドロー、レオン・アト、オメガ、(略)などのブランドをぶら下げる組織になっています。

前置きのようなものがやたらと長いものになりました。
たまたま、開発に関わることになったiPhoneアプリ
時計にまつわるものだったので、この部分がひっかかったのです。まさかテレビCMの元祖が時計を扱ったものだったとはしりませんでした。これは偶然の発見。
腕時計をファションの中に組み込んだところがスウォッチ
新しいところだったというのが刺さった。
こちらが開発したCROMAGNONも規模は小さいですが、
基本的にはそういう路線を踏襲しています。別にスウォッチのことが念頭にあったわけではないけど。
本書は、電子部品産業を扱ったテキストです。
Appleのような会社に部品を製造して販売する会社に
焦点を当てています。
筆者は、東京大学の工学部から大和証券に入社。
そのまま電子部品産業の研究をして、投資情報を投資家に
提供するアナリストとして20年の経歴を積む。

システム開発から海運まで様々な産業の調査を担当しましたが、一番長く関わったのが電子部品・材料産業でした。数千回の取材を通じて、非常に多くのことを教えていただきました。

以下、目次。この本を買ったきっかけはたまたま
東京に用事があったときに、デパートの上のフロアの本屋に立ち寄ったから。その時、ビジネス関連の書棚に平積みされていた。

1章 盛者必衰。事業環境は厳しくなる
2章 「世界で勝てる企業」だけが生き残る
3章 価格競争の呪縛からの脱却
4章 中核技術の認識とその展開
5章 事業の大胆な見直し
6章 事業モデルの検討
7章 外部経営資源の活用
8章 金持ちA様 貧乏B様
9章 理念と文化が世界1位を育てる 
エピローグ

内容が、どれくらい新しいのかといわれると、
さてということになります。
が、どうもこの業界にまつわる情報が欲しいなと思って
いたところ、こんなものが。
印象に残ったトピックも色々あったのですけど、
何より、本書で推薦されている本の1冊1冊が
おもしろそうです。
電子部品産業を、発展させるための産業政策の
立案をした人の著書だとか。
村田製作所を創業した人の自伝っぽい本とか。
うむ。Jobs本を読んでから、なんか伝記ブームだ。
この間、雑誌で、会社の社長をやっているけど、
ほかの経営者の伝記みたいなものは読んだことがない
という人もいた。たしか、マネックスの社長。
この産業に興味を持つきっかけになったのが
なによりもApple
もっと言えば、iPhoneに引きずり込まれたことが原因だと
思います。
間接的にはシリコンバレーという、起業が盛んな町に
ついて興味をもっていたということもあります。
「ハイテク産業」というものを、文系コンプレックスの
立場から「眺めて」いたわけで。
そうしたら、こんな本に巡り会った。
ほかに印象に残っていることといったら。
キーエンスという会社のことかな。
自分が毎日、通勤で使っている尼崎という場所から
生まれた企業で、利益率もめっちゃいい。
従業員の年間の給与もめっちゃいい。
なんと、こんな企業が西日本にあったんかいなという
驚きをうけました。
iPhoneのアプリの開発体制の作り方が何もApple
専売特許ではなかったということも興味深い。
インテルだったかな。
パソコンをつくるために必須の「マザーボード」という
部品の作り方を全世界に公開する。
公開されたノウハウを使った、途上国のパソコンメーカが
安価なパソコンをどんどん作って、世界全体に行き渡る
パソコンの台数を増やしていく。
インテルは、パソコンを動かすのに、不可欠でかつ
値段が高い部品を、独占的に、販売する。
自社の一番、目玉になる商品を、売り込むために、
パソコンが安く世界中で販売される環境作りをする。
事業というのは、こういうものなんだなと思う。
さらに偶然だけど、友達が真剣に転職を考えていた
会社が、「良いお手本」として出ていたのも驚いた。
その友人は、日々修練を積んで、目端が利いていたという
ことになる。
この本が扱っている産業の「よさげ」なところは、
世界ダントツのシェアを確保する会社がいくつもある
ということかな。
どれだけ華やかな産業でも、競争が激しくて、
利益が上がらないのであれば、参入しても意味がない。
そういう基本的な考え方ももちろん踏まえているけど。
どうせ、仕事として取り組むなら、大きな舞台が
待ち構えているところで、動いてみたいなというのは
人情というものなのではないかな。
この本の筆者の人は、こういう本を書けるようになるまでに、数多くの会社経営者から話しを聞くことが多かったそうです。
その蓄積がこのようなテキストになる。
どうも文学にかぶれたことがあったのだろうか。
村上春樹のテキストが登場したり。(「ノルウェイの森」)
「スティルライフ」という小説が登場したり。
秋元康つんくまで登場しました。
会社の色々な事業モデルを説明するときに、
芸能界、エンターテインメントの世界でヒットした
モデルを使うと、わかりやすくなるということなのでしょう。
こういうところも、なんだか、注目している部分に
共感がもてる。
そういえば、ロームとかいう会社の社長はピアノの道を
断念した会社の経営に専念したとかも書いてあった。
Googleも出てきた。ちょっとだけど。
GoogleAppleという会社に興味をもって、「追っかけ」
をやって、数年になる。
一念発起して、MacBookAirを買ってみたり。
ゲームプログラミング関連の洋書を引っ張り出してみたり。
プログラマの紹介の「仲介」やってみたり。
遠くから、石だけ投げるような、そんなスタンスを
ズルズルと。
ソフトウェア産業という、巨大な、巨大な世界の
中の、片隅の片隅の片隅を、うろうろするというか。
そんな状態。
そういう視点からみると、この本が扱っている範囲の
広いこと広いこと。
業種も違うし。
時代区分も広いし。
町の片隅にじっとしているのをちょっとやめて、
いきなり高層ビルに登って、景観を楽しむような
そんな面持ちになった。
そういえば、本の最後の方で、高層ビルのてっぺん、
50階のフロアに事務所を構える建築家なんてのも
登場していました。
普段は、一人で仕事をしているので、(アナリストも基本的には働き方は個人だと思うけど。)
なんとなく、こういう「組織戦」の様子を醸し出す本が
魅力的に見えるのだろうか。
キーエンスという会社が、立ち上げ当初、従業員20人ちょっとだったというところにも刺さった。
そういう規模から初めても、本当に売れる物をもっていると、巨大企業にまで成長するんだなって。
JapaneseDreamだよなって思う。
浜松ホトニクスという会社も印象に残った。
東大の物理学科の教授がノーベル物理学賞を受賞するのに
一役買った発見を可能にした実験機器の重要部分の部品を
提供できたと。
なんだっけ。たしか、遠い、星空のむこうにあるような光の点滅も「検知」できるセンサーだったかな。
それが、素粒子物理学の発展を支えたと。
なにより、「1社独占」に近い「何か」をもっている企業というものが、いろいろ登場しているのがいい。
そして、その会社が、別に超人の集団でもなんでもなさそうだから。
ちょっとがんばったら、そういう領域ってまだあるのかなとか。
零細やっていて、つくづく思うのであります。
いや、本当に。
巨大な市場で埋もれたらあかんねん。
小さな所で、一番にならなあかんねん。
切実ですよね。本当に。
そういえば、大学で独占禁止法という法律の解説講義を
受けていたのを思い出します。
アンプルだったかな。病院が多用する注射の部品で
シェア100パーセントの会社にいじめられていた
会社の社長にゼミで挨拶をしたのを思い出した。
今にして思うと。独禁法の講義で見聞した内容が
ビジネス的には一番、重いのではないかなと。
そんな気がしてならない。
結果的に、時間が経過しないと、どんなことを勉強すると
ヒットするのかということは、予想不可能なんだよなって
思います。
たとえば、この本では、世界的な企業が、シェア拡大を
実現するために、会社を買収とかもするわけです。
その時の、シェア、占有率の上がり型が、半端ではない。
となると、きっと企業買収をするときに、きっとどこかの
国の公正取引委員会が、独禁法に抵触するかどうかを
チェックしているだろうという推測はできる。
見る限り、海外案件が多いのだろうけど。
学生の時に、産業法の講義を聴講していたとき、そんなことは思いもよらないことでした。
ただ、「まあ聴いてみるか」って感じ。
独占禁止法の背後にハイテク産業の影を感じるなんてことも
なかったし。いや。授業で扱う事例でマイクロソフトとか、
デルとか出ていたのですけど。
あの時は、文系だったので。いまでもそうですが。
テクノロジーを軸にして、経済を見るという視点そのものが
なかった。
懐かしいな。本郷キャンパス。「あの頃に帰りたい。」
三四郎池が、落ち葉で囲まれていたのを思い出します。
確か、ゴロリと横になっていました。
今も、あそこは、あるのだろうか。あるよね。きっと。
そういえば、あの時、お世話になった大学の先輩が就職していったような会社の名前もよく登場していた。
やっぱり、世界で戦えるような企業活動しようと思ったら、
「頭脳」がいるのですよねってことで。
「あれ、最近、人員削減するってニュースでいっていたような。」
そんな会社の名前も書いてある。
それと、もう一冊、気になった本が。

フラット化する世界 [増補改訂版] (上)

フラット化する世界 [増補改訂版] (上)

今年私が考えたいテーマ−2011年の記事を振り返って (前編) - My Life After MIT Sloan

オキュパイ・ウォールストリート運動を受けて、もう一度この記事やフリードマンの「フラット化する社会」を読むと、ますますグローバル化に伴う、業務のフラット化が進んでいると感じる。米国では、ソフトウェア開発だけでなく、会計士や弁護士などが行う業務の一部も切り分けてインドにアウトソースする動きがますます進んでいて、学卒の学歴があっても、JAVAなど汎用性のあるソフトウェア言語が出来ても、職を失うということが起こっており、ますますその傾向は高くなっている。それは6年前に既に「フラット化する世界」で指摘されている通りだ。同じことが、今後、日本企業にも起こる可能性を指摘したのがこのエントリだった。

ここで紹介されている「フラット本」
本書でも「平坦になった世界」という形で紹介されています。
まあ、こうやって自分のアンテナにひっかかる人が
二人も言及しているわけですから。きっといい本なのかな。
いや、何がいい本かというのは、人にもよります。
もともとは、英語の本。
「洋書ファンクラブ」の精神にのっとり。
原書で読んでみたいと思ったが。どうもKindle版が
ないっぽい。なんでやねん。こんなに売れている本なのに。
PowerWord12000の射程距離がどこまで通じるのか
是非とも実験してみたいと思った。
「英語」を使いこなす。
これも、まあ「グローバル人材」の「はじめの一歩」
なんでしょうけど。
そうそう。
心斎橋を歩いているとき、やけに分厚い「洋書」を読んで歩いている女の子と通りすがる。
あまりにも気になり、「それは英語の本なの?」と
聴いてしまった。
質問された女のこはおどおどしながら、こちらを向く。
「そうです。」
おそらく、小学校の高学年くらいじゃないかなと。
「国籍はどこ?」
「私は韓国人です。」
「そうなの。それじゃ。日本語、韓国語、英語。
みんな出来るの?」
「はい。」
「それはすごいね。いつから、英語の勉強をしたの?」
「小学校1年生から、勉強しました。」
「どこで? いま、なんていう学校にいっているの?」
中華学校です。」
「・・・・・(沈黙)。」
「あ、ごめん。英語に取り組んでいる子供みて、つい声かけちゃったの。ばいばい。」
あわてて、別れる。
あの子は、どんなプロセスで英語の勉強をしたのかな。
それにしても、小学生の段階であんなに分厚い児童文学の作品を読んでいるのには、驚きです。
日本の小中学生であんなことができる人って、全体の何パーセントなのかと思った。
そういえば、中国系のお坊ちゃんが、やっぱり英語で子供向けのSF小説を読んでいたのを見たこともある。
そう。World Is Flatって、こういうことなのかなと。

このエントリーで取り上げることになった
「電子部品」の本で気になったことが、もう一つある。
社長の英語力。
果たして、英語はどれだけ出来たのだろうかと。
そんなこともあるのです。
そういえば、居酒屋で、NHK英語テキストを熱心に
聴いている零細企業の社長に会ったこともあったな。
Flatという言葉を使わないで、「平坦な世界」と書いた
筆者の「現状認識」について、ふと気になった。
言葉で、不自由したって、世界に通じる企業を生み出す
ことが出来るというのは、大事な「経験的知見」なのでは
ないかと思います。(4003文字)