英語の質問箱―そこが知りたい100のQ&A (中公新書)

英語の質問箱―そこが知りたい100のQ&A (中公新書)

東京新聞中日新聞という媒体で、英語の学習を進めている人たちから河合塾で英語の先生を
つとめる人が質問を受けるというもの。
英語でよく登場する微妙な単語の使い方だとか、学校の英文法で学習した内容で
理解があやふやだったりする箇所に関して、文字通り、老若男女いろいろな人たちからの手紙からの
色彩豊かな質問をどんどんこなしていく。
以前のエントリーではアメリカ人が日本語で英語について書くというテキストを特集しました。
今回は生粋の日本人で、どうやらnative speakerと丁寧に交友関係を作ってきた人による
英語本。
のっけから“How do you do ?"という挨拶は今でも、現地(アメリカ、イギリス)の日常の会話で
登場するのかということから入ります。
実際に、英米の人に聞いてみたところ、「ほとんどない。絶滅品種」とのこと。
ほかにも"Toilet"”RestRoom"といった「お手洗い廻り」の単語が与える語感の違いなども
現地の人の生活実感もふまえて、ユーモラスに語られています。
この筆者は、この新聞連載での原稿をもとにして、なんと3冊の新書を書いているのですが、
どうしても、連載の性格上、同じような質問内容を、違う冊子で重複して書いているところなどが
あります。
たとえば。"blah blah blah"の説明ですとか。
新幹線の車内で、もうじき駅に停車しますという英語のアナウンスがどういうことをいっているのかとか。
第3部で書かれている内容が第1部の「質問箱」にも書かれていたりするのですこし
困惑します。でも、よく学習の最中に問題になりそうなことがコンパクトにまとめられているのでは
ないかなと思います。
基本1冊につき、100個の質問に答えるという内容になっていて。
その解答内容はそれぞれ独立した内容なので、読みやすさも抜群。2ページで一区切りできるので
読書としてお手軽。
こういったところは、「日本人の英語シリーズ」よりも、とっつきやすい。こちらは、もっと一つ、一つの
英語文法のトピックについて立ち入って検討している。(856文字)
英文法の魅力 - 日本人の知っておきたい105のコツ (中公新書)

英文法の魅力 - 日本人の知っておきたい105のコツ (中公新書)

同じ筆者による英文法シリーズの第2作目。
前著が好評だったことにより実現した規格のようです。
新聞連載の性格がまったくかわっていないので、新書の内容も前著と同じ。
これは、いいなと、なんとなく思いました。
「リスニング能力を高める効果的な方法はありませんか?」
という質問に対しては、「音読」を進めています。
↓の人がおすすめだったらしいのです。どんな世界にも「神様」はいます。

國弘正雄
かつて、「同時通訳の神様」、「日本のライシャワー」その他の異名をとる。英語の同時通訳の草分け的な存在。アポロ11号の月面着陸の同時通訳(1969年)などで有名になり、「同時通訳の神様」とまで呼ばれたが、アポロ11号に関しては後日の送信記録から、その通訳は意訳であったことが確認されている。本人も、アポロ11号の通信は何十万キロもの中継地を経由していたため、雑音しか聞こえず、その場を取り繕うために機転を利かせた「通訳」が好評になったと幾度となく私的な会話および講演にて回顧し、「神」と呼ばれることには抵抗感を抱いている。

クール・ビズ」は実際に英米の人に説明しようとしたらどうやって表現したらいいのかという質問も
ありました。
"Cool Biz is the Japanese government's campaign to save energy by asking companies to voluntarily use less air conditioning in summer and allow employees to wear lighter clothes, no ties and no suit jackets."
という風にやったらいいのではないかとか。
マーク先生の本でも、日本でしか通用しない英語のいろいろな例が紹介されていたけど、
ここにもありって感じです。(784文字)
下の動画は、本書で紹介されていた映画のトレイらーです。

これがシリーズで一番新しいものです。

ある小説のなかで、Stan is resembling his father more and more as time goes by.
という英文をみました。resemble(似ている)という状態動詞でも進行形に出来るのですか?

3冊の中で一番、「文法解説」の固い色調が際立っています。
上のような、実際に受験英語の指導をしていると、生徒に問いつめられて、答えに窮するようなケースも
ちらほらあり。
live resemble remain
といった状態動詞でも進行形になる場合という細々した話を進めていきます。
逆に、紙数の制限があるので、こういうトピックになると、満足のいく記述にはなりにくいかも
しれません。
むしろ、こういう話題は、マーク先生の「日本人の英語」のようなスタイルのほうがしっくりくる。
これは、読者の好みの問題。
時間の流れでいったら未来におこることなのに、willを使わないで、表現する場合ですとか。
「まず、原則はね〜」という話をしてから、そのルールをひっくり返すような話を
するというのが、英文法が嫌いだという人が多くいる原因なのではないかと。
ふと思ったりします。

She always has to call when I'm taking a bath.
はどう訳すのですか?

本書にのっている英文の大体は、意味わかったのですが、不覚にもこれはわかりませんでした。
筆者によると、このhas toを掲載している日本の文献は少ないとのことです。
正解は
「彼女は、お風呂に入っているときにかぎって電話をよこすんだから。」
だそうです。
こいつは、初めてだと、思いつつも、わりと、使うシーンはあるのではないかと。
この質問に関連してalwaysの語感をどのようにとらえたらいいのかという、もっと学習上実践的な
内容も含まれています。(767文字)

日本の近代史で、大きく取り上げられる人物を
「英語の学習がうまい人の軌跡をたどる」という面白い切り口で本にしたもの。よく取り上げられる話題に
新しいspotlightを当てるという点でとてもすばらしいと思う。
筆者は、以下に出てくる「英語達人」のメソッドを下地にして、英語の成績をあげていくための
ノウハウ本も出している。
新渡戸稲造 5千円札の人。これが一枚財布に入っていると、安心して外出ができる。「武士道」という本は
      もともと、彼が「英語」で書いたのでした。
岡倉天心 「茶の本」など。基本的には文部省の官僚だったが、美術に詳しく芸術大学にもポストがあった。
斉藤秀三郎 理系大学に入学してから、英語に目覚めた人。「前置詞」をテーマに1000ページ以上の大論文とか
      書いたそうな。
鈴木大拙 「禅」というものを、外国に広げる立役者。宗教の色合いが濃いのだけど、実務的には英語の先生を
      やっていたそうです。
幣原喜重郎 この人も、大学受験日本史をやっていると、近代のあたりで必ず出てくる。というか日本の首相にも
      なった人。外務省の人だったので、語学のセンス抜群。
野口英世  戦前の「修身」の教科書の王様だったそうな。留学費用の餞としてもらったお金で、飲み屋にいってしまう
      という危ない面もあったようです。「医学」で世界に勝負。
斉藤博   たしか、この人も外務省の人。日本とアメリカの間での太平洋戦争開戦間際まで、日本政府とアメリカ政府の
      交渉の窓口にいたと。つまり、彼の英語によるコミュニケーション能力がまともだったかどうかで
      日米関係の帰趨に変化があったのだと。

父・祥三郎も外務省主任翻訳官を務め、親子2代の外交官にあたる。東京帝国大学法科大学卒業後、1910年に外務省に入省。アメリカ・イギリス勤務が長く、親英米派として知られた。また、省内屈指の秀才とも評されるほどで将来を嘱望され、35歳の若さでシアトル領事、2年後にはニューヨーク領事となったほか、パリ講和会議ワシントン会議・第1次ロンドン海軍軍縮会議といった大正期の重要な国際会議において全権団に加わっている。1929年には43歳の若さで外務省情報局長に任じられた。
1934年に駐オランダ公使に任じられるが、その年のうちに駐米大使としてワシントンに転任し、満州事変後に悪化した日米関係改善に尽くす。特にパネー号事件では本国の訓令を待たずに直接ラジオの全国中継で平和的解決を全米中に訴えた。
近衛文麿内閣時代、外務大臣候補としても名前が挙げられるようになるが、駐米大使在任中に死去。アメリカ政府は斎藤の死を惜しんで巡洋艦アストリア号に遺骨を載せて日本本国に送ったことで知られている。築地本願寺において外務省葬が執り行われた。

岩崎民平  本書を書いた人は、東大の英語研究者。というわけで、この人には愛着があったらしい。
      研究社の「英和中辞典」の編纂に加わっていたと。この新書の筆者の他の本でも確か登場。
      すごく地味な仕事にずっと従事していたわけですが、英語の専門家の人からすると、やはり偉大な
      人だそうです。
西脇順三郎 英語が好きだった「詩人」。やはり英語の先生だったそうです。
白須次郎 たしかNHKのドラマの主人公にもなったのではないかな。芦屋生まれの貴族。イギリスで仕込んだ英語で
     日本の占領行政のトップだったマッカーサーとも対等に渡り合ったのだと。筆者のお気に入りらしい。
     この新書では、留学経験がなくても、本人の努力によって英語の成績をあげた人たちを取り上げるのが
     ポリシーだったそうだ。だから津田梅子のような「帰国子女」は取り上げないという決定を下した。
     その点、彼は、明らかに、本書の編集方針に反する人だけど、業績が面白いので、取り上げたと。(998文字)

聖書でわかる英語表現 (岩波新書)

聖書でわかる英語表現 (岩波新書)

今回のエントリーで紹介した5冊の新書の中で、これだけ岩波新書。別に深い理由があるわけではなく、たまたま。
偶然。
一つのエントリーを5冊の英語本でまとめようと思ったら、たまたま見つけたから、読ませてもらう。
かなり偶然で、特に思い入れもなく買ったのだけど、こういうのに限って、大当たりだったりする。
いや、人によって好き嫌いが激しく出るタッチなのかもしれないけど。
ベイルート出身と、プロフィールに書いてあったので、中東がルーツの人。
こういう本が書けるくらいに、英語も自由自在。そして、この内容で第3の言葉であるはずの日本語で
このレベルのものを書く。
外国人による(日本人と結婚されたそうですが。)英語本の傑作の一つなんじゃないかな。
しかも、キリスト教のルーツというのはもともと中近東。その中近東で生活レベルにまで根ざした宗教生活の
有り様を、Vividに伝えています。巻末には、キリスト教と、ユダヤ教にまつわる行事の丁寧なカレンダーまでついている。
豪華。

Michael Ancram, the Conservative chairman, publicly washed his hands of Mr.Hamilton and signaled his permanent exile from the party he represented for 14 years.

イギリスの政治家が、有名デパートの経営者から便宜をはかられたということが原因で失脚したというニュース。
失脚した政治家の火の粉をさけたい他の政治家は、ピラト提督のように、彼から距離を置いたと。

So, David beats Goliath as the Royal Bank of Scotland ends NatWest's three centuries of independence.

ダビデの星」とか聞いたことありますか?イスラエルの国旗にあるやつ。
あのダビデが、どうして銀行と銀行の合併のニュース記事に登場するのかという話。

I'm supertitious about calling it a miracle. I don't want to invite further attention from the evil eye.

聖書でevil eyeってどうやって登場するのでしょうと。

Graeme Murphy is bringing his Sydney dance company to New Zealand to tour Salome, He tells Jill Rivers why this box-offie hit is such a special ballet.

サロメ」は、書店でも翻訳がたくさん置いてあります。

登場する英文を読み解くときに、かなりいろいろな背景をわかっていないと、つらい側面もあるかもしれないけど、
時事英語の読解のテキストにもなっているような気がします。
この本をきっかけにして、聖書関連の知識についても、このブログでまとめて紹介できたらなと思いました。
今回紹介した「英文法三部作」の筆者も聖書は、込み入った内容の英文を理解する上では必須のテキストだと
明記しておりましたので。(1172文字)

でこの5冊を「勉強」して、お前がいいたいことは何だと。
「プロセス」としての学習も大事でしょと。
今回紹介した本をどれをとってもおそらく点数には結びつかないとは思うけど。
英語と長くつきあおうと思ったら、いろいろなインスピレーションが得られるのではないですかと。
即効性のある学習も大事だけど。結局、長くつきあうということにやぶさかでなくなることが、
いろいろな分野の学習にある程度有効なのではないかなと思ったので。
日本の近現代史を、英語の学習者の活躍の舞台としてみるという見方を知るというのも。
聖書表現の英語におけるあり方や、キリスト教国の一般家庭の生活のあり方を、一つの切り口でのぞいてみるというのも。
こういったところに、「教養」というものが存在する余地があるのかなと。