読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ATDでも、M&Dでも、ピンチョンの作品にはたくさんの
詩歌が出てきます。
倒置や省略が多用されて、なにやら趣旨が不明瞭なのが多いのですが、
テキストにあるものは避けて通れないです。
'Inherent Vice"に登場する歌唱について
『LAヴァイス』のソングリスト(1): sgtsugar.com.blog
”V"という作品と音楽
『V.』サウンドトラック: sgtsugar.com.blog

主に、読者が鑑賞したり、読み上げたりするものだけでなく、
「歌唱」、ある時代に流行した音楽も随所に登場するようです。
下記リンクで、駒場で英語の詩の講義をされていた人の本に
たどれます。
豚も真珠、サトチョンも英詩: sgtsugar.com.blog
ざっと、振り返ると、M&Dなどはやはり歴史物というジャンルなので
いわゆる出来事、Eventを歌い上げる「Epic」かな。
叙事詩
今回、紹介するのは心を歌い上げる「叙情」の詩歌。
叙事詩というカテゴリーでも、あるたとえば平家物語
歌っている琵琶法師は、「諸行無常」のケーススタディを使って
、自分の心情を歌っているのだろうから、はっきりとした分類には
ならないかもしれないけど。
詩歌といったら、日本語でもなじみがない人が多いのではないかなと
思ったり。
ひとまず、本書の目次。
1章 幼い日の夢
文字通り、「ものごころ」というものが果たして、ついているのかどうか
怪しい、ギリギリくらいの時。まだBabyで、母親に抱かれている時の
甘い雰囲気とか。本当に、まだこの世に生を受けたばかりってころ。
はっきりした記憶というより、回想したときの「イメージ」。そんなものを
詩歌として活写した作品を集める。
ララバイ「子守歌」などはこのジャンルに入る。
たしか、「メリーさんの羊」なんかもここだったはず。

2章 子供だった頃
このステージになると、「ものごころ」もついていて、大人になってからも
思い出せるような、かなりはっきりした「記憶」を扱っている。
もちろん、子供がその場で、歌い上げた感じのものもある。
マザー・グースとか。意味やストーリーやあまり深いものはない。ただ、
同じ音が、単語の組み合わせの妙で、つながっているとか。
言葉遊びとして、洗練されていて、後生まで残ったような。
そんな作品が多い。
小さな子供の心象風景なので、大人はわかりづらいところが多い。
地面を掘って、兵隊を埋めているという作品が出てきた。
「この作品は何者?」と思って読み進めても、どうも正体が
よくわからない。
ようやく、この本の筆者の解説を読んで、実は「おもちゃの兵隊」を子供が
いたずらで、地面に埋めた時の話を詩歌にしているのだというオチがわかって、
「なーんだ。」と思ったこともあり。
受験的な言い方をすると、詩歌は、読解が難しい。これは、英語でも国語でも
そうだと思う。

3章 青春 愛
タイトルの通り。恋愛チックな心情を歌い上げるものや、
若さのすばらしさを歌い上げるものや。
Teenな感じが出てくる。

4章 人生 生きる苦しみ
人生の岐路に立たされて、悩む人の心持ちを描写したり、
周囲から、尊敬もうけていたような人が、ある日突然拳銃自殺を
遂げるみたいな、「悲劇的」な要素もまざる、アダルトな雰囲気を漂わせる
作品を集めている。こうなってくると、「社会的」な詩歌も出てくる。
典型的なのは、「貧困」を耐える様子を歌ったモノとか。

5章 たそがれ
そういう人生の苦しい時期も通り過ぎて、幸か不幸か、神様に
招集されてしまった人が、自分の死後の状態を気にして、成仏できないで、
残された人に、色々語りかけるみたいなスタイルなどが出てきます。
もう墓の下に埋葬されている人が、周囲の人は自分の過ぎ去った存在の
ことを覚えているのかどうか、気に病んでいる。そして、残念というか、
必然的に、どんどん時の経過とセットで、自分がいたことが忘却されて
いくことを、告げられて、呆然とする様子とか。
なかなか厳しいものもある。かわいがった飼い犬が最後には出てくる。
そして、その飼い犬も、墓の近くに来たのは、食事用の骨の入手が目的で
飼い主への思慕ではないみたいなことを、「詩的」に表現するみたいな。
そんな多少、むごいシーンもある。
他に、印象に残っているのは、幽霊になってしまった詩人の奥さんを
死後に残された友人が取ってしまう(こういう表現が適当かどうかはちょっと不明だが。)というストーリーも用意されている。


6章 自然と季節
そして、「世間」「浮き世」を通り過ぎて、春夏秋冬と花鳥風月を
愛でる作品をズラリとならべて、合計80ちょっとの作品が
鑑賞できるようになっています。
「キラキラ光る、お空の星よ」♪
これ聞いたことない人はいないでしょう。
そのオリジナルにあたる作品も収録されています。
この本を読んでいてわかったのは、イギリスやアメリカの
詠み人知らずの「言い伝え」「伝承」みたいものを、文学者が
見つけ出してきて、それを「作品化」したり、「メロディをつける」と
いったことをして、業績にする場合があるようです。ここらへんは
「創作」の手法として興味のあるところです。

オリジナルは英語の詩歌なので、読者は、中学、高校レベルの英語で
わかる読解ドリルをやるような、そんな趣向になっています。
筆者いわく、だからあえて、プロ向けすぎる「傑作」は削ったと明言
しています。それでいいのだと思います。だって、ジュニア新書だから。
語注も、とても丁寧に振られているので、
まず、通して、原文を読む。
語注を読んで、知らなかった語彙を確認。
改めて、原文の詩歌を鑑賞する。
最後に、筆者が用意した訳文を読んでみる。
こんなスタイルがいいのではないかと。
私は実際にそうやって読んでみました。
作品によっては、どうやら英米の詩歌の文学史で重要な役割を
果たした人も出てくるので、彼らについては筆者みずからが、
もっと詳しい、詩歌の作者の半生や、文学史上での役割、
興味深い、エピソードの紹介などをしています。

前後に、色々とありますが、省略。
総論的に、どうやって英語の詩歌を読み上げたらいいのかとか。
そんな話です。
人が生まれてから死ぬときまでに、「感じること」「心の中に強くあること。」
誰もが、通り過ぎるような、読書が共感できるような「経験」の「言語化」。
そんなところなのではないでしょうか。
だから、本書でも、詩歌の分類を「ライフ/ステージ」で小分けにして、
最後は、個人、個人の心情を越えたところにある、「自然、世界」そのものを
歌い上げる作品を並べているのでしょうと。
叙事詩」は避けましたと。
筆者も書いております。
授業で、詩歌を扱うこともある。
日本の国語の授業であれば、
口語体か、文語体のどちらで書かれているのか?
自由形式なのか?それとも、形式が決まっている和歌や短歌なのか?
叙事詩、叙情詩、どちらなのか?
そういった分類を習って、主に、短歌と和歌。そして口語自由詩を扱い。
さらに、鑑賞文といわれているものを素材にして、詩歌に親しんでもらうという
構成を取っているのではないかと。少なくとも、自分の経験では。
石川啄木の痛ましい生涯とか、与謝蕪村小林一茶の俳句とか。
そういうものを取り上げたエッセーみたいなものも授業で出てきました。

一人で読書という形式で詩歌を鑑賞したり、
物語文を読んでいるのと、実際に授業という形式で
もっぱら児童文学などを、生徒さんと一緒に読んでいくというのでは
かなり感触が違う。
いや、こういう表現は正確ではない。
今まで、「国語の授業」という形で、生徒として受けてきたものと、
「先生」という立場で、「授業を執り行う」主体になるのでは、
扱うものに対する見方ががらりと変わるといったほうがいいのかな。
何気なく、みすごしてきたもの。
なじみのある作品。
そういったものに、長い蓄積があるのだなと。そんなことを考えながら
授業をすることがある。
そして、こういう「見方」が一番、変わったのは「詩歌」かもしれないと。
なんというか。
「テキストの解説」というものを、学習塾の補助としてやっていても
やはり、なんというか。作品に対する、「おもいいれ」「愛着」みたいな
ものが、なんとなく、出てくる。
授業で扱う文章には、長くて、まだ幼い生徒が咀嚼するにはちょっと
つらいのではないかと思うようなテキストもある。
でも、詩歌は、基本的にそんなに長いものではない。
でも、その限定された短いテキストのなかに、色々な「意味」「メッセージ」が
込められていて。
なんとなく。せめて、こういう詩歌のもつ味わいくらいは、
授業で伝えられたらいいかなとか。
そんなことをどこかで考えているのかもしれない。

以上。
学校的な「詩歌」の扱いについて、色々と書いてみた。
もっともピンチョンの作品で登場する詩歌が、上記のような本の紹介で
把握できるかといったら、それは疑問。
おそらく、そういう点ではこのエントリーはすこし、場違いなのかも
しれないけど。
実験的に、一つの作品について、色々書いていく試みなので、それでも
いいのですが。
評論。論文のようなジャンルの英語は、単語の意味や、書き方のスタイルも
決まっているので、解釈がぶれるということもあまりない。
しかし、詩歌は違う。
作品の一つ、一つに、筆者の主観や、単語の用法の癖などがどうしても
出る。筆者の「個性」が反映される。
だからこそ、物書きをやっている人にしてみたら、自分という存在を
一番、明晰に残せるのかもしれないけど。(3487文字)
ロジックを伝えるのではなく、「感覚」を伝える。
ある意味一番、むずかしいハードルに挑戦しているなと。

詩歌とピンチョンをさらに、こじつけ的につなげることを考えてみると。
M&Dでは、登場人物たちがどんな宗派に属しているのかとか。
M&Dの時代の新大陸で、どんな聖職者が活躍していたのかとか。
キリスト教を巡る話題も結構おおい。
そして、アメリカのキリスト教
ゴスペルという音楽ジャンルを生み出した。
自分の趣味の育成もふくめて、この接点は、すこし大事にしたいかなと。