Gravity Rainbow 映画や歴史


ドイツものということで。
ドイツ語で進行していく映画を、まじまじと鑑賞したのは
今回は実は初めてかもしれない。
なんと、YouTubeでそのまんまアップロードされています。
DVDをめぐってを借りる必要がなかったんだね。
平家物語」だったかな。
平氏の一族が、都を追い落とされて、「壇ノ浦」で一族郎党が
悲劇的な最後を遂げるというのがありました。
あれの「第三帝国バージョン」というところ。
もうじき、ソ連軍によって、ベルリンが陥落して、
ドイツ「第三帝国」が、終焉を迎える直前のお話。
あるものは、最後まで「総統」に付き従うことを選ぶ。
あるものは、破滅的な快楽に身をゆだねる。
あるものは、家族と共に心中することを選ぶ。
決死の逃避行をして、なんとかその場から避難することに成功した
人も出てくる。
映画の主な舞台は、ヒトラー第三帝国の幹部と共に、秘密の地下室で
首都陥落を待つなかでのやりとり。
実際に、この秘密の地下室でヒトラーの秘書をしていた当事者の
記録をもとに、制作された映画。
平家物語とちがって、清盛ならぬ「ヒトラー」は、最後の最後まで
登場する。
彼に、国の命運を預けて、中枢のスタッフとして粉骨砕身した人たちが
首都の秘密の地下室で、
「最後の時」をまちうける。
第2次大戦の話は、映画にもよく取り上げられる。
ドイツ語の映画をまじまじと見るのが、はじめてだったかもしれないという
ことは、きっとほとんどは、ハリウッドの映画だったのだろう。
僕がみたのは。
プライベートライアンとか。
シンドラーのリスト
「Life is Beautiful」そんな作品もありました。
なんといいますか。
アメリカ人がつくった映画だから、第二次世界大戦は、基本「サクセスストーリー」の
ようです。きっとそういう感覚が、大部分の人たちのものなのかもしれない。

この映画は、ドイツ人によって制作されたものなので、戦争に対する「史観」が
根本的に異なる。
首都ベルリンが、敵軍によって粉みじんにされて、戦争終結するという
ラストを、どうやって、やり過ごしたのかという、非常に後ろ向きな
スタンスなのだが。
どうも、年齢のせいか、こういう「作風」のほうが、じんとくるようになった。
平家物語を読んでいて、源氏の士の活躍を読んでいて、面白くなるのか、
それとも、壇ノ浦で、海の底に身を投げるシーンに思いをはせて、鑑賞したくなるのかの
違いなのかもしれない。
僕のなかでは、ヒトラーがいたといわれる秘密の地下室のシーンのなかで
諸行無常の響き」が聞こえていたような気がする。

近代世界史を代表するといってもいい近代国家の最高指導者が
ヒトラー」という人だったということを、のぞいたら、ありとあらゆる点で
正常で、優秀な人たちが織りなす物語といってもいいかもしれない。
これから、ワイマールの歴史なども掘り下げていきたいと思っているけど。
この歴史的な独裁者を、拍手喝采して迎えたのも、ベルリン陥落を受け入れるのも
選択の余地のない必然だったのかなと。
そんなことまで考える。これは、歴史学の問題だけど。
どうしても、このトピックだと、ドイツ人による、ユダヤ人の問題という
最も、きな臭い問題がよぎるわけだけど。
今回の映画は、そういう問題は、遠景に退いている。
そもそも、ドイツ郊外で、ソ連軍によって、何万人というペースでベルリン市民が
死亡したということも、ドイツ軍の将校が、ヒトラーに報告するという形でしか
登場しない。
完膚無きまでに、市街戦によって破壊されたベルリンはもちろん出てくる。
そこで、銃撃に襲われて、目を開けながら、死に絶える少年の姿も登場する。
しかし、作品の本筋は、あくまでも、そういう具体的な破壊のシーンから
隔離された地下室で進行する。
大砲や銃撃がずっと聞こえているなかでも、
将校幹部の家族は、食事をして、総統のために、合唱をする。
一部軍人は、宴会に夢中になる。
だから、これは、ドイツ人と、ドイツ人の物語として、鑑賞できる。
ヒトラーオーストリア人ですが。)
Best and Brightestという作品は、
アメリカで、最も優秀といわれた人たちが、戦後最悪の失敗に近い
形で、終結したベトナム戦争を、なんとなくはじめて、なんとなく終わらせたという
ことを、緻密な取材によって、明らかにしていました。
この本の書評を読んでいたとき、おもしろいものに出会う。
組織の外部で生きていると、Best and Brightestに登場する人たちに対して、
軽い「義憤」のようなものがわき起こっていた。
しかし、自分が組織にはいって、生きていると、ベトナム戦争のような
泥沼に、一歩一歩踏み込んでいくことを、誰も制止できなかったことが
なんとなく、必然の事だったんじゃないかと。そんなふうに思うようになったと。