シグナリング
スペンスの業績の中で最も有名なのはシグナリングに関する理論、特に労働市場に関する理論である。現在の契約理論において彼の議論を欠かすことはできない。このモデルでは、労働者は自らの有能さを使用者に証明するために、取得するのにコストが必要な何らかの学位を獲得する。使用者は、有能な労働者は学位の取得にコストが比較的低くすむ一方、無能な労働者は学位の取得に多大なコストを払わなければならないと判断するため、より高い学位を持つ労働者には高い賃金を払うことにする。このモデルは、送り手(この場合、労働者)の情報が受け手(この場合、使用者)に伝わり、そのシグナルがコストのかかるものであるならば、必ずしもその教育自体に本源的な価値が備わっていなくとも機能する。
2001年のノーベル経済学賞受賞者、マイケル・スペンスは、学歴競争の原理を理論的に分析。
その「シグナリング理論」で、教育は、個人の能力を他人に知らせる「信号(シグナル)」として取り扱われる。企業は、労働市場で、求職者ひとり一人の実力を正確に把握しがたい。そのため、求職者は、自分がどれだけ優秀であるかを積極的に知らせなければならない。そのとき、最も効果的な手段が教育である。
スペンスは、教育が必ずしも個人の能力を向上させる、とは考えなかった。一流大学が一流人材を育てるというよりは、一流人材が自身の優秀性を市場に知らせるため一流大学に入る、といった具合の主張だ。大学の卒業証書は、大学で実力をみがいた、という証書ではない。「私には、最初から大学を卒業するだけの実力がある」とのことを示すシグナルにすぎない。
企業にとって、求職者ひとり一人の能力を精査するのは困難。やや不確実なものの、学歴によって見分ける方が簡単となる。
スペンスは、
教育の需要は、良い看板を手に入れようとする欲望によって決まる、
教育は、個人が労動市場に送る信号の強度を強めるための投資
と考えた。